作品タイトル不明
30「しののんも割と好戦的じゃね?」②
東雲たちに声をかけたのは、一回り体格の大きい角の生えた種族だった。
人に近いが、赤褐色の肉体は人間とは比べ物にならないほど逞しい。
鬼を連想してしまうが、少し違うようだ。
「こんばんは。自分は安倍東雲。こっちは弟の円と友達の征四郎はんや」
「……我はオーガ族族長の息子ゴールン」
「弟のガイオン!」
「あわわ、オーガなんて初めてや。それにしても、身体も大きければ、声も大きいんやね。元気でなによりや」
東雲は、オーガ族を見上げ、笑顔を浮かべた。
かつての東雲ならば、鬼と連想するオーガを有無を言わさずに攻撃を仕掛けたのかもしれないが、今は鬼たちとも仲良くやっているので敵対するつもりはない。
夏樹ではないが、散々実家で人間の嫌な一面を見ているので、良くも悪くも純粋な鬼のほうがまだマシだと思っている。
「よろしゅうね」
握手を求めて手を差し出した東雲だったが、オーガ族のゴールンはその手を払った。
「あらら」
「人間などと握手などするつもりはない!」
「我らを油断させてなにを企む」
「なんも企んでないんやけどなぁ」
困った顔をして東雲は円と征四郎を振り返った。
ふたりは警戒している。
オーガも警戒していた。
東雲がだけが自然体だった。
「自分らは、勇者由良夏樹の愉快なお仲間やで。現在、夏樹くんは魔王はんとお話ししとるから、自分らはお城を散策させてもらっとるんよ。あ、よかったら、君らも一緒に」
「――舐めているのか、人間!」
「由良夏樹の名を出して、無事でいられると思っているのか!」
「……夏樹くん恨まれすぎやろ」
あはは、と笑うと、その態度が気に入らなかったのかガイオンが拳を握りしめ、東雲に向かって振るった。
「よせ、ガイオン!」
ゴールンが慌てるも、もう遅い。
丸太のように太い腕で殴られてしまえば、細い東雲の身体は簡単に吹き飛ばされるだろう。
――当たれば、だが。
「あかんよぉ。自分たちは、一応は魔王はんと協力関係にあるんやから、おいたしたらオーガ族が困ってまうよ?」
東雲の顔の一センチほど手前でオーガの拳がぴたりと止まっている。
オーガは、赤褐色の顔を真っ赤にして力を入れるが、東雲に指一本触れることができない。
それどころか、自らの足が背後に滑っていく。
「……人間め」
「人間もやるやろう?」
「そうやって障壁に隠れているだけとはな! 後ろの人間も、生っ白い骨のようなガキと――」
攻撃が通じず苛立ったガイオンが、東雲の背後にいる円と征四郎に関して何かを言おうとしたが、できなかった。
東雲の拳がオーガの硬い顎を捕え、脳を揺らした。
巨漢が膝をつき、何が起きたのか理解できず目を白黒している。
「――ガイオン!」
ゴールンが弟の名を呼んだ、次の瞬間。
「自分の可愛い弟にふざけたこと言うてくれるやん! 死ねやぼけぇええええええええええええええええええええええ!」
東雲の蹴りが、ガイオンの側頭部を蹴り飛ばし、彼が大きな身体を宙に浮かし、数メートルほど飛んで地面に激突した。