作品タイトル不明
29「しののんも割と好戦的じゃね?」①
安倍東雲は、弟の安倍円と、友人神奈征四郎と共に魔王城の探索をしていた。
「……なんというか、魔王の城というからもっと禍々しいものをイメージしていたが、普通の城だな。いや、西洋的な普通の城にも縁はないんだが、ゲームや漫画とはやはり違う現実なんだと思い知らされた」
そう言いながら、辺りを見渡すのは征四郎だ。
神剣を二本所有する剣士であり、血筋も名家の生まれだ。
最近まで、復讐のために山籠りしていたという、少し変わり者でもある。
「せやねぇ。ボクも、モンスターが城の中を徘徊しとるかとわくわくしとったんやけど、残念やわ」
征四郎に続き、魔王の城のイメージが違うとぼやくのは、安倍円だ。
一見すると少女のような顔をした少年であり、東雲にとっては大切な弟だ。
安倍家の末っ子ということもあり、兄妹たちから愛されている。
かつては、目の前で鬼に友人を食われたショックで復讐に取り憑かれていたこともあったが、紆余曲折あり、死んだと思っていた親友由良夏樹と再会し、今は幸せそうだ。
兄としては、弟が子供の頃の元気を取り戻してくれたことを素直に喜ぶ一方で、夏樹と円の関係が今後どのように発展していくのか気になってもいた。
互いに、女の子と思っていたようだ。
夏樹は可愛らしさを持ちながらもよい少年に成長している。
円は、兄の目から見ても可愛らしいボーイッシュな少女――のような少年だ。
過去の記憶を失っていた夏樹に対し、彼をずっと想い続けていた円が今も彼をどう思っているのかまでは聞いていない。
まだ再会して時間も経っておらず、周りが変に焦らせる必要はないと思っているのだ。
兄としては、可愛い弟が幸せならそれでいい。
(にしても、好奇心で異世界に連れてきてもらったんけど、随分と辛気臭い世界やねぇ)
征四郎と円と違い、東雲が気にするのはこの世界の魔力だ。
長い戦いの果てに、多くの命が奪われているのだろう。
魔力の中に瘴気を感じ取ってしまう。
殺された者の恨み、生きている者の残虐性など、お世辞にも良いとは言えない感情が魔力を汚しているのだ。
(夏樹くんは、この世界の魔力を得るだけで、食事はしなかったって言うとったけど、自分は真似したくないわぁ。少なくとも、自分の糧にする前に気がおかしくなってまう)
この世界で魔力を糧に数年を戦い続けた夏樹に、呆れればいいのか、賞賛すればいいのか東雲はわからなかった。
(……夏樹くんがこの瘴気に蝕まれているようには見えへんから心配はせえへんけど。ああ、嫌や、嫌や。この魔力に触れているだけで気が滅入るわぁ)
もともと東雲は、家族を守るために霊能力者になった。
才能がどうではなく、霊能力者になることで家族を守りやすいと判断した結果だ。
すでに、妹も弟も心配はいらない。
京都では、酒呑童子、九尾の狐と交友を持った。
怨敵茨木童子ももういない。
(……晴明先輩が獣耳喫茶を開くから手伝わへんかって誘ってくれはったし、霊能力者を引退するのもええかもしれへんね)
東雲がそんなことを思いながら、征四郎と円にそろそろみんなのもとに戻ろうと声をかけようとした。
「――待て、なぜ人間がこのようなところにいる!」
敵意が籠った、鋭い男の声が響いた。