軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

28「覚えられるほど余裕がなかったんじゃね?」②

「フェイリスよ」

「……はい」

涙を流すエルフの若き族長に魔王ギーゼラが優しく声をかける。

「そなたは知らぬだろうが、勇者の言葉通り……彼ひとりに魔族は万を超える数で攻め、敗北している。彼も死にものぐるいで戦っていたのだ。戦った相手を気にかける余裕はなかったであろう」

「いえ、べつ――」

余裕ありましたけど、と言おうとした夏樹の口を千手と祐介が塞いだ。

「余計なこと言うな。話がすすまねぇ」

「エルフさんをこれ以上悲しませちゃだめだよ!」

「もごもご」

夏樹も、エルフと揉めたいわけではないので抵抗しなかった。

そうしている内に、フェイリスは涙を拭った。

彼女は夏樹を睨みつけ、宣言する。

「――見ていなさい、勇者。我が父と兄のためにも、この私の名をお前に刻んでやる」

「もご!」

誇り高き戦士であるフェイリスは、一対一ではなく、夏樹ひとりに対して魔族が大勢で戦った上で敗北したことを魔王に聞いたせいか、父と兄のことを覚えていなかったことを飲み込むことができたようだ。

おそらく、同じ立場ならば覚えられないと考えたのだろう。

まだ敵意が残っているようだが、夏樹はとくになにも思わない。

口を押さえられているため、口にはできないし、することもないが、フェイリスではまるで脅威ではない。

「……あれ?」

「どうした、佐渡?」

「これって、夏樹くんとフェイリスさんにフラグが建ったんじゃ?」

「お前も黙ってろ!」

空いている手で、千手が祐介の頭を叩いた。

「ったく、どいつもこいつも……安倍兄弟と、神奈を連れてくればよかったぜ」

「……そなたも大変だな」

「……魔王ほどじゃねえよ」

なにやら通じるものがあったのか、千手と魔王が頷きあう。

「エルフの族長フェイリスよ」

「――はっ」

「我々は勇者たちと手を組み、人間との長い戦いに決着をつける」

「――っ、はい!」

「魔族のこれからの未来のために、どうか力をかしてほしい」

頭を下げた魔王に、フェイリスが目を見開く。

魔王が若き族長に頭を下げるなど前代未聞だった。

勇者を引き入れ、人間との戦いに幕を引く覚悟を持つ魔王に、フェイリスは胸に手を当てて大きく頷いた。

「お顔をあげてください、魔王様。このフェイリスをはじめ、エルフは魔王様と魔族の未来のために死力を尽くして戦いましょう!」

フェイリスだけではない。

側近たちも、彼女と同じように深々と頭を下げた。

「――感謝する」

魔王ギーゼラは、エルフと良好な関係を築けたことを心から安堵したようだった。

(よかった、よかった。俺のせいで魔王さんとエルフが悪い関係になったら困っていたよ。でも、うーん、やっぱりエルフさんのお兄さんとお父さんが思い出せない。四天王もいたし、魔剣をくれた魔族さんとかうっすら記憶に残った魔族さんもいたんだけどなぁ)

夏樹は記憶をたぐってみるも、やはり思い出せなかった。

(……娘さんがここまで言うエルフさんなんだから、きっと異世界の人間なんか比べ物にならないほどいい人だったんだろうなぁ。俺なんかに殺されちゃうなんて、残念だね)

多くの敵を殺してきた夏樹が心が痛んだことはない。

斬った敵の生死を確認する必要などなかった。

動かず、夏樹の邪魔をしなければ、生きていようと死んでいようと興味がなかった。

(あの時は、日本に帰ることしか考えてなかったから、魔族とかどうでもよかったけど……今回は、悲しむ魔族さんができるだけでないようにしよう)

フェイリスの涙を見て、少しだけ夏樹の心は動いた。

(ま、異世界の人間は一切の容赦無く鏖殺するけどね!)