作品タイトル不明
24「エルフさんは異世界の王道じゃね?」②
エルフの族長フェイリスは、これから異世界の勇者由良夏樹と会うため魔王城を部下を連れて歩いていた。
彼女はエルフの中では年若い百六十歳だ。
部下として背後に控える男女のエルフの方が、百歳から二百歳ほど歳を重ねている。
だが、フェイリスがエルフの族長に選ばれたのは、単に一番強いエルフであるからだ。
「……まさか消えたという勇者由良夏樹がこの世界に舞い戻ってきたとは思わなかった」
「姫様……あの男と敵対することだけは、おやめください」
「言うな! わかっている!」
年若いフェイリルよりも強いエルフはいた。
彼女の前に族長を務めていた父と、次の族長となるはずだった兄だ。
しかし、父も兄も死んでしまった。
――他ならぬ、由良夏樹によって。
繰り上げられて族長になったのがフェイリスだった。
エルフの戦士の大半が由良夏樹によって殺されている。
生き残った者も戦士としては再起不能だ。
フェイリスは、族長である父と兄から戦場に立つにはまだ早いと言われたが、今はこうして族長となったことで今後は戦場に立つことになるだろう。
戦場に自分がいれば、父と兄が生きていたとは思わないが、いつか共に戦いたかった尊敬する父と兄がもうおらず、二度と会うことができないことは、フェイリスの心の中に異世界の勇者への恨みが生まれるのは自然のことだった。
「よりによって魔王様も、勇者と協力関係になるなんて」
「姫様……勇者由良夏樹は魔王様さえ倒した悪鬼羅刹。手を組めるのならば、組んだほうが魔族のためになるでしょう」
「わかっている! 頭ではわかっているが、心では納得できない」
「……姫様は戦場にいませんでしたのでお伝えしますが、お父上も兄上も勇者と正々堂々と戦いました。そして敗れたのです。ご本人たちも、満足して死にました。勇者も、全力を持って戦いました。遺恨を残すべきではありません」
「……わかっている」
父も兄も、エルフの戦士たちは、魔族のために、エルフのために全力で戦い、敗れた。
相手が勇者単体であったことはいまだに信じられないが、正々堂々戦い、満足して死んだのならば、戦士として誇りある死だ。
恨むことは筋違いであるが、残された遺族として感情は制御できない。
「……せめて、戻ってこなければよかったものを」
フェイリスも、由良夏樹がいなければただ恨むだけでよかった。
しかし、この世界にいてこれから会うのだ。
彼女の心中は複雑だった。
「まさか、新たな族長として魔王様にご挨拶にきたことがこのようなことになるとは思わなかった」
「姫様……勇者を利用して人間を倒すと割り切りましょう」
「そう、だな。その通りだ」
腹心のエルフの言葉に、頷く。
大きく深呼吸をして、魔王城の中にある会議室の前に立った。
「――エルフ族長フェイリスです。魔王様と勇者にご挨拶に参りました」
「どうぞ」
メイドが会議室の扉をゆっくり開ける。
フェイリスに緊張が走った。
一礼して部屋の中に入ると、
「あー、エルフさんだ! こーんーにーちーはー!」
「うわー、金髪の正統派エルフさんだぁあああああああああああああああああああ!」
「……さすがにエルフを見ると、俺も感動を覚えるぜ」
三人の人間が感情的にこちらを見ていた。
魔王は困った顔をしている。
フェイリスもきっと困った顔をしていただろう。
――とりあえず、扉をそっと閉じて廊下に戻った。