作品タイトル不明
間話「杏と王女の友情じゃね?」①
ブレイバーズ王国に勇者のひとりとして呼ばれた綾川杏は、義理の兄である夏樹たちが魔族側に着き自分たちと戦うことへの覚悟をしていた。
彼女の中では、夏樹は「悪い奴ら」に騙されて利用されているという認識だ。
彼を救えるのは自分しかいない。そう信じて疑っていない。
不幸なことに、彼女の間違いを指摘してくれる者はいない。
また、「間違っている」と言われても彼女は受け入れないだろう。
「……異世界っていうから漫画みたいな世界だと思っていたのに、なんか気持ち悪い」
杏は、「悪い魔族を倒し、騙されている兄を救う」という目標を掲げているが、人間側について戦うことを嫌だと思っていた。
城下町を散策した杏の目に飛び込んできたのは、奴隷をいじめ抜く人間たち。
同じ人間に対し、暴力や暴言を当たり前にする人間たち。
まともに食事をしていないのだろう、痩せ細った子供と、そんな子供の存在を無視する大人たち。
比較的平和な日本で過ごしていた杏には、この世界が恐ろしかった。
それ以上に、この世界の人間が気持ち悪かったのだ。
「アテーナー様は、人間に関わらずに放っておけっていうけど」
勇者である杏には、ブレイバーズ王国や他国の貴族や王族から面会がある。
時間があったので受けてみたが、すぐに後悔することとなった。
王族貴族は、魔族のせいで民が苦しんでいる、魔族のせいで世界が滅んでしまう、というが、杏の目には少なくとも民を虐げているのは同じ人間に見えた。
次に、王族貴族たちが口にするのは、息子や孫息子を杏と結婚させたいということばかり。
複数人いる勇者に全員声をかけているようだが、数打てば当たる感覚で結婚を申し込まれても不快でしかない。
なによりも、杏は夏樹を愛しているのだ。
他の男などどうでもいい。
一方で、同郷から勇者として召喚された松島明日香には、結婚の申し出はない。
貴族や王族、新たな神々についた天使や、名もなき神と毎日のように交わっている。
さすがに彼女を王族や貴族の妻には「ない」と思ったのだろう。
しかし、若い少年たちは、明日香の肉体に魅了されのめり込んでいる。
中には、婚約者がいる少年や、結婚している青年も構わず相手にしているようだ。
杏は、明日香と関わるつもりはないが、同じように見られることは嫌だった。
「――あら、杏じゃない」
城の廊下を歩く杏の前方から、使用人をつけずにひとりで歩いてくる王女が声をかけてきた。
彼女の名は、ジョスリン・ブレスコット。
亜麻色の髪をショートカットに切り揃えた、黒縁眼鏡をかけた十六歳の王女だ。
ドレスではなく、ズボンを穿いていた。
男装ではなく、パンツルックの少女だ。
彼女は魔法使いであり、宮廷魔法使いに名を連ねてもいた。
「ジョスリン様、こんにちは」
「もう、杏ったら。ジョスリンと呼んでと言ったでしょう。私とあなたはお友達なのだから」
人懐こい笑みを浮かべたジョスリンは、杏の小柄な身体を抱きしめた。