軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17「謎の人物がいるんじゃね?」

――夏樹たちが、異世界に来たと同時刻。

とある渓谷。

人間も魔族も入ることはない険しい森の奥。

澄み切った清流を眺めながら、岩の上に胡座をかいている老人がいた。

「ほう……これは驚いた。あの坊主が再びこの地に戻ってきたのか」

眼を瞑った老人は、口元を緩める。

「混ざり物の天使、人間たち、亜人……おそらく鬼か。面白い面々で来たものだ」

老人は、渓谷から移動していないにも関わらず、夏樹たちを把握していた。

「世界が慌ただしくなってしまった。いつの時代も、人は争うことをやめぬ。それが業であるとわかっていても、悲しくある」

老人はゆっくり顎髭を撫でる。

「――しかし、なぜ坊主は弱体化しているのか?」

かつて戦いを手ほどきした少年は、この世界で青年となり、神殺しに至るほどの強さを得ている。

彼の相棒の存在や、海の勇者であることも要因のひとつだとしても、人の身であれだけ強くなった人間を老人は知らない。

「未完成で未成熟ゆえに、弱体化した? いや、違う。……なるほど、そういうことか。やれやれ難儀なものだ」

老人は夏樹の力を探り、理解した。

同時に、夏樹の危うさも理解した。

「……坊主もこのままだと死ぬか。それはなんというか、もったいない。さてはて、どうするか」

老人はそれだけ呟くと、石のように動かなくなった。

ブレイバーズ王国王宮。

白い着物を身につけた少女がいた。

年嵩は十五、六だろう。

白い髪を顎で揃えた、俗に言うおかっぱ頭の少女だった。

長さが揃った前髪の隙間から、二本の角が生えている。

――彼女は、鬼と呼ばれる存在だった。

彼女は与えられた部屋の中からでることはなく、椅子に座り、ぼうっと窓の外を見つめている。

異世界の空は「かつて居た世界」と同じようで違う。

空気の匂いも、肌への感触も。風の音さえ近く感じる。

そんな異世界に、彼女は興味を抱かない。

食欲もなく、いや、欲の全てがなくなっている。

時折、神や勇者が会いにくるが、あまりにも鬱陶しくて殺してしまった。

誰も彼も彼女に手を出そうと、欲望に満ちた目を向けるのだ。

その行為が、彼女の逆鱗に触れるとは知らずに。

彼女に触れることができる者はたったひとりだけ。

そう決まっている。

「えー、ゴールデンウィークを前にまさかの異世界旅行となりましたが、みんなが旅の間、元気で、笑顔でありますよに! ――乾杯!」

「乾杯じゃぁああああああああああああああああああああああ!」

「乾杯っすぅうううううううううううううううううううううう!」

「酒だぁああああああああああああああああああああああああ!」

「肉だぁああああああああああああああああああああああああ!」

「べぁあああああああああああああああああああああああああ!」

夏樹の音頭に、小梅と銀子がビールを掲げ、喉を鳴らして美味しそうに飲む。

転移酔いから復活した星熊童子も負けじとビールを飲み、虎童子が肉を網の上に綺麗に並べ、熊童子がノリで咆哮を上げた。

夏樹たちは、魔王城の中庭を借りてキャンプ中だった。

テントを組み立て、火を起こし、炭を並べた焚き火台の上に網を敷き肉と野菜を焼き始める。

夏樹たちを中庭に案内したメイドは、まさかこんなノリノリで酒盛りをされるとは思わなかったようで、唖然としていたが、ビール片手の小梅に誘われ気づけば一緒にビールを飲んでいた。

「――このお酒うまっ!?」

メイドは日本のビールを味わい、絶句していた。

魔王に報告を、と考えていた彼女だったが、二度と味わえないかもしれないお酒を優先した。

「いやー、まさか魔王さんのお城でキャンプするとは思わなかったなぁ」

夏樹は、かつて魔王城で魔王を戦った日のことを回想しようとして、

「くぉら、夏樹! アイテムボックスから次のビールを出すんじゃ!」

「え!? もう一ケース飲んじゃったの!? ペースを考えてよぉ、もう!」

小梅の声に、思考は現実に戻り、みんなの輪に戻っていくのだった。