作品タイトル不明
16「勇者的には人間ぶっ殺したいんじゃね?」③
夏樹は、気持ちを切り替えることができた。
異世界に来てから感情が不安定だったが、今は違う。
凪いだ海のように穏やかだった。
「ごめんね、魔王さん! なっちゃんったらちょっと言い過ぎちった! ちゃーんと俺たちが人間を滅ぼしておくから、高みの見物でもしていてよ!」
「いや、待て、あまり変わっていないのではないか?」
「へーきへーき! 魔族さんが戦うことはないっすよ! へっへっへっ!」
なぜか夏樹は三下のように揉み手をしながら、笑みを浮かべる。
魔王ギーゼラは、先ほどまでの剣呑としていた夏樹と今の夏樹の代わりようにどう反応すればいいのかわからず戸惑い気味だ。
それは、娘のラーラも同じだったようで、口をぱくぱくさせている。
「さーてと、まずは祐介くんと合流しなくちゃね。そして、絶望の神を絶望させて、神も魔族もみんなぶっ飛ばーす!」
すべきことが決まればあとはシンプルだ。
「待て、勇者!」
「なぁに?」
「私の言葉を聞いてほしい」
「どうぞどうぞ」
真剣な顔をしている魔王に対して、夏樹の対応は軽い。
「私は、人間と関わりたくないと言った」
「うん」
「民を傷つけたくないと言った」
「そうね」
「……嘘偽りない本心だ。民が傷ついて構わない王などいない」
「それは、まあ、そうだね」
「しかし、王としての責務を放棄したいわけではない」
夏樹はギーゼラの言葉を待つ。
彼女は決意を決めた顔をして、夏樹に頭を下げた。
「私も一緒に戦わせてほしい!」
魔王の言葉に、夏樹は眼を細める。
「先ほどの勇者の言葉で目が覚めた。我らの国は我らで守らなければならない! 民を傷つけたくないのなら、我が前線に立とう!」
「ママだけには戦わせないよ! 私も戦う!」
ギーゼラに続き、ラーラも宣言した。
「……いいんじゃない。わかった。一緒に戦おう」
冷静になった夏樹は、戦いを嫌うギーゼラの気持ちもわかる。
好き好んで、あんな人間と関わり、民を傷つけたくないというのも理解できた。
それでも、やはり戦うべきだ。
魔族の未来のために、この世界の人間が二度と好き勝手しないように。
「感謝する、勇者よ」
「ありがとう!」
ギーゼラとラーラの感謝を聞き、夏樹は頷いた。
「じゃあ、宣戦布告をよろしくね!」
「任せてもらおう。魔王として、人間すべてに戦いを挑もう。――だが、その前に、各種族と会議をさせてほしい。魔王である私にすべての決定権はあるが、話を通しておかないと確執が生まれるのでな」
「わかったよ。その間に、みんなも転移酔いが治るだろうし」
「では、勇者たちをもてなさせてほしい」
「あ、大丈夫です! 食料持参しているんで!」
「……準備万端だな」
「そうだね。魔族さんたちの食糧を消費するわけにはいかないじゃない」
「そこまで気遣ってくれるのか、重ねて感謝する」
実際は、この世界の物を口にしたくないという理由から食糧を準備してきたのだが、それを魔王に言うほど夏樹も無粋ではない。
「お気遣いに感謝するよ。でもさ、俺たちのことはいいから、魔王さんのすべきことをよろしく」
「承知した。では、しばし時間をいただく」
魔王は夏樹たちに深々と一礼すると、娘と共に失神したままの四天王を襟首を掴んで会議室を後にした。
「よし! んじゃ、みんなが体調を戻したら飯でも食べようぜ! 今日はキャンプだ!」
「うぇーい! 酒の時間じゃぁあああああああああああああああああああ!」
「異世界でキャンプしながら一杯! 最高じゃないっすか!」
「姉御たちじゃねえが、異世界の空を見ながら一杯やるものオツだな」
「せやねぇ。楽しみや」
「バーベキューもしましょう。初キャンプが異世界とは……人生何があるかわかりませんね」
緊迫した空気が霧散し、いつも通りに酒盛りを始めることになった。