作品タイトル不明
66「出発の朝なんじゃね?」①
どんどこ、どんどこ、太鼓の音が鳴る。
河原で焚き火を囲んだ河童たちが楽しそうに踊っている。
河童たちは夏樹に気づくと、手招きをしてくれた。
彼らに誘われるまま、夏樹は河原へ足を踏み入れる。
河童たちは夏樹を暖かく迎え、共に踊った。踊り狂った。
しばらくすると、踊りに誘われたように川から翡翠色の美しい河童が現れた。
「――一族を、どうかお救いくださいカッパ」
どんどこ、どんどこ、どんどこ。
太鼓が鳴る。
美しい河童と、他の河童たちが、その場に膝をつき首を垂れた。
「――どうか、我が一族をよろしくお願いしますカッパ」
■
「――河童大神様! 河童大神様なのですか!?」
夏樹はベッドの上で腕を虚空に伸ばしながら目を覚ました。
「……なっちゃん?」
「な、なんや河童大神様て?」
夏樹の部屋の床に布団を敷いて安倍円と安倍東雲が、夏樹の声に驚いている。
ふたりはすでに起きていたようだ。
「あ、ごめん。河童大神様からコンタクトがあって」
「サタンさん……紀元前から生きているけど、河童大神様なんて知らないなぁ。夏樹はどこの世界の神様とコンタクトとってるんだ?」
「河童世界だよ!」
「そんな世界はないよなぁ」
サタンも呆れ顔だ。
「……河童大神様は俺に一族を頼むと言った? どういう意味だ? なにか深い理由があるはず」
「あんまりこんなこと言いたくないんやけど、なっちゃんの見たのは夢なんやない?」
「そうかなぁ? 河童大神様から大いなるお力を感じたから夢じゃないと思うんだけどなぁ」
夢であることは違いないが、夢を介したコンタクトである確信が夏樹にはあった。
「河童大神様には申し訳ないけど、今日は異世界滅ぼす記念日だからしゃんとしないとね」
「……夏樹、いえ、夏樹くん。異世界は滅ぼしちゃ駄目だからね」
「サタンさん! 魔王のくせに、そんな細かいこと気にして!」
「細かくないから! 世界が滅ぶか滅ばないかはまったく細かくないから!」
きっと河童大神様の夢を見たから、起き抜けから元気になれたのだろう。
「幸先いいな! 今日はいいことありそう!」
「……サタンさんは心配だなぁ」
窓の外を見てみれば、太陽は輝き、小鳥が囀っている。
本当に、良い一日になりそうだった。
■
みんなで朝食を取った夏樹は、母に「いってきまーす」と学校に行くふりをして、時間差で家を出たみんなと合流して、ゴッドがいる喫茶店『最初の妻』に集まっていた。
「はーい、こんにちはー! 今日はこのメンバーで異世界を滅ぼしに行きたいと思いまーす! 現地の方々を蹂躙するので、少々グロテスクなシーンがあると思いますので、お気をつけください!」
「なーんで、動画撮っとるんじゃ!」
スマホのカメラで動画配信する気満々の夏樹の頭を小梅が引っ叩いた。
小梅は、すでに春子のお下がりのセーラー服を装備している。
「さすがに異世界の動画を流すのはまずいんじゃないっすかねぇ」
魔剣花子と魔剣太郎を刀帯に差した銀子も、JK時代の制服姿だ。
「……おどれの似非JKみたいな格好をアップするよりもマシじゃろうて」
「似非ってどういうことっすか! ねえ、夏樹くん!」
「銀子さん……俺、ちょっと無理している感じが逆にアリだと思います!」
「――え? 無理しているように見えるっすか? 私的には全然いけるじゃないっすか、って朝、鏡の前でガッツポーズ取ったばっかりなんすけど」
「自分の手で顔を隠せば完璧だよ!」
「夏樹くんが普段どんなサイトを巡回しているのかよーくわかったっす」
「ああっ、俺のお馬鹿さん! なんで自分から暴露を!?」
銀子を褒めたつもりが、自らの秘密を暴露して懊悩する夏樹に、七森千手が朝だと言うのに疲れた顔をして声をかけた。
「朝からテンション高えな。ったく、こっちは心身ともに疲れているっていうのに」
「千手さん、おはよーっす!」
そんなことを言いながらも、千手もちゃんと制服を身につけていた。
学ランではなく、上下紺色のブレザータイプだ。
「夏樹くんだもんね」
「あ、一登。おはよー」
「うん。おはよう」
学生服にスクールバッグを肩にかけた一登にも挨拶をする。
千手と同じく、なにやら疲れた様子だ。
「あれ?」
「どうしたの?」
「いや……気のせいかな? 千手さんもだけど、なんか強くなってね?」
「うん。昨日ね、照子ちゃん、すさすさ様、さまたん、マモンさんに鍛えてもらったんだ」
「なにそのオールスター!?」
「千手さんと、征四郎さんと、義政先輩、都さん、澪さんと一緒にね……正直、辛かった」
修行中を思い出したのか、一登だけではなく千手も青い顔をしている。
「――まさか素盞嗚尊様に稽古をつけていただけるとは、感謝の極みだ」
「征四郎さん、おはよう」
「おはよう、由良夏樹。異世界で自らの力を試すことができる日が来るとはな……拙者、心が躍っているでござる」
「急にキャラ変わってません?」
征四郎も学生服姿に合わせてくれているが、なにやら口調がおかしい。
少々不安になるが、夏樹のそんな感情はすぐに吹っ飛んだ。
「――夜露死苦!」
「義政さん!?」
征四郎の甥っ子義政少年は、短ランのボンタンを身につけ、ハードワックスでオールバックに髪型を決めると、紫色のサングラスを掛けていた。
「異世界上等!」
「よ、義政さん、貫禄がやべーっす! まじ、さすがっす!」
五歳児とは思えぬ威圧感に、夏樹は舎弟みたいになった。