軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

62「修行なんじゃね?」①

三原一登は、自分をどこにでもいる普通の少年であることを理解していた。

兄のように慕う親友由良夏樹のように、目の前の困難に立ち向かう勇気がない。

実の兄ながら、最も嫌悪していた三原優斗のように女性達から好かれる漫画の主人公のような人間でもない。

――あくまでも自分は凡人である、と思っていた。

「し、死んだ! 今死んだよね!? 首がぽーんと飛んだもん! 自分の身体を上から見下ろしちゃったよ! うぉ、ぉえぇえええええええええええええ!」

自らを凡人と思い込んでいた一登は、もしかしたら自分は凡人ではないかもしれないと思い直していた。

凡人が、日本神話に名を轟かせる素盞嗚尊を相手に戦いの手解きをしてもらえることなどありえないだろう。

さらに、何度も首を刎ねられ、手足を斬り落とされ、胴体を両断され、死んだと思ってもまだ生きている。

こんな体験を凡人がするわけがない。

「おいおい、かずたん。死んだと思うから、身体がビビって吐いちまうんだよ。戦いの最中に吐いたらマジで死んじまうぜ。せめて吐くにしろ、立って吐けって。座って吐いたら、殺してくださいって全力でアピールしているようなもんじゃねえか」

天叢雲剣を肩に置く素盞嗚尊は、藍色の甚平を一登たちの返り血染めながら、息を切らさず平然と立っている。

天照大神が作った空間ゆえ死ぬことはないが、死を経験した一登は嘔吐が止まらない。

「千ちゃんも、魔眼が使えるようになったのは良いけど、頼るにはちと使いこなせてねえ。ま、人間の身で俺を一秒止められただけでもすげえんだけどな。普通は止められねえから」

「…………」

褒めているのだろうが、素盞嗚尊の声は千手に届かない。

なぜなら、千手は上半身を地面に埋めて気絶しているからだ。

「征四郎くんは……あのね、神剣にお名前をつけてあげて! 本当に! 怖いの! じぃっと瞬きせずにこっちを見てくる子が怖いの!」

征四郎は何冊もの名前に関する本を開きながら、唸っている。

彼の背中には、黒づくめの少女がおぶさっていた。少女は催促するように、征四郎の頭を叩き続けている。

「最後にね、義政くんは何者!? これだけ大暴れしているのに、眉ひとつ動かさないで瞑想しているとか、すさすさ信じられない! 見てみろ、向こうでチアガールの格好をした姉ちゃんがいるんだぜ! 平常心じゃいられないって!」

義政は少し離れた場所で足を組んで瞑想をしている。

かれこれ数時間もの間、ぴくりともせずひたすら瞑想中だ。

素盞嗚尊の叫びに義政がゆっくり目を開くと、一登を応援するためにチアガールの姿になった天照大神を見た。

「――ふっ、慕う少年を応援する乙女……素敵ではないですか」

「え? なにこの子、勇者! 存在が勇者! 心が勇者! 性癖が勇者!」

「では、僕は瞑想に戻りますね」

「ちょ、本当になんなのこの子? 中の人、何周目の方!?」

「え? 僕子供なのでよくわかんないです」

「急に!? 急に子供みたいに!?」

素盞嗚尊のツッコミが響くが、義政は再び瞑想に戻ってしまう。

「……この子のことは深く考えないようにしようっと。さて、サマエルのほうは」

視線を動かすと、サマエルと水無月姉妹が戦っている。

素盞嗚尊のように圧倒的な力で叩き潰すのではなく、ぎりぎり抵抗できる力であえて戦っているようだ。そこから少しずつ力を上げていくことで、がむしゃらについていく姉妹の力が引き上がっていくのだろう。

サマエルの教え方はとても丁寧だ。しかし、そのやり方は下地がある水無月姉妹だから有効であり、一登のように喧嘩くらいしかしたことがない少年を伸ばすことはできない。

「さてさて、かずたん。千ちゃん。休憩時間は終わりだ。次の殺し合い行くぜ!」

「お、お願いします!」

「くそったれ!」

一登は口周りを袖で拭い、震える足を叩いて立ち上がる。

千手は土を払って、叫んだ。

「よしよし! そのガッツがあれば、強くなれるぞ! んじゃ、ま、まだ何度か死んでおくか!」

素盞嗚尊が天叢雲剣を振るう。

動きは一登にはまるで見えなかった。

気づけば、片腕が飛び、痛みが来るよりも早くもう片方の腕を切り落とされた。

ようやく激痛がきて叫びそうになるが、首を刎ねられ声すら出ない。

くるり、と回転する視界の中で千手が同じ目に遭っている姿を見て、一登は「ああ、やっぱり普通はこんな体験しないんだよなぁ」と人ごとのように思った。