作品タイトル不明
61「一登の決意と修行の始まりなんじゃね?」②
現れたのは、天照大神の弟である素戔嗚尊だった。
「いやぁ、地上が騒がしかったというか、俺の前世からの大親友なっちゃんがアテーナーと事を構えるようだったから見守っていたんだが……女の子って怖いね」
きっと聖剣さんと杏の戦いを見ていたのだろう。
素盞嗚尊はぶるり、と震えた。
天照大神は察したようだが、一登たちは意味がわからず首を傾げるだけ。
「というか、なにしに来たんですか。あと、そのすさすさをやめろって言ってんですけど。めちゃくちゃうざい」
「はっはっはっ、前世からの大親友なっちゃんが俺をすさすさと呼んでくれるんだ。俺はもうすさすさの尊で構わないぜ!」
「ママに張り倒されればいいのに」
「もうされたよ! ママったら、奥さんたちと一緒にしばくんだもん! もう、俺、発泡酒から麦茶になって、水になっちゃった! 今度やらかしたらおかずが減るって!」
素盞嗚尊の家庭事情に、笑えばいいのか、悲しめばいいのか、一登たちは悩んだ。
「で、だ。かずたん。なっちゃんの親友で弟分のかずたんは俺にとって親友で弟分って前世でも来世でも決まってる」
「ど、どうもです」
「もちろん、千ちゃんもさ! なっちゃんの親友の千ちゃんは俺に取って何度転生しても親友、さっ!」
「あ、ありがたきお言葉です」
「うぜぇええええええええええええええええええええええええ!」
さりげなく親友を増やそうとする素盞嗚尊に、天照大神が叫んだ。
神域でなければ、雲海が飛び込んできそうな声量だった。
「我が家のクソ愚弟が申し訳ないです。かずたんも千手さんも嫌なら嫌って言って良いんですよ。名前と格ばかり上で、実際は底辺のクソ神に礼儀もクソもないんですからね」
「散々な言われようだな! そうじゃなくてよう、姉ちゃん。かずたんが強くなりてえって言うのなら、強くしてやりたいのが親友ってもんなのよ」
話が一登のことへ戻る。
「察するにって言うか、間違いなく、異世界に行くのになっちゃんにおんぶに抱っこじゃ嫌だってことだろう? それに……あの女の子の……いや、無粋な事を言うのはやめておくぜ」
素盞嗚尊は言葉にしなかったが、一登が杏を止めたくて力を欲していることはわかった。
それは、千手も、天照大神たちも察していた。
「真面目な話、俺がどんなに鍛えてやっても、かずたんに素質があってもなっちゃんレベルに強くはなれねえよ。なっちゃんの強さは、完全なる血統とか関係なく、規格外すぎる。あれだけの力を持ちながら、人間でいられるのがおかしい。まあ、たまに人間っていうのは笑えるほど強え奴が生まれるから、大した問題じゃねえ。だけどよ、かずたんはそのレベルには至れねえ」
「……はい」
「別にかずたんに才能がねえってわけじゃねえんだぜ。素質だけなら、かずたんの兄貴よりも上だ。異世界に勇者として呼ばれた俺の前世からの大親友の祐ちゃんと同等かそれ以上はある。千ちゃんだって、鍛えればかなり良いところいくぜ。だが、いかんせん時間がねえ」
問題は時間だ。
明日の朝、異世界に向かうのだから、二十四時間もない。
そもそも神に鍛えてもらったからとはいえ、一般人ほどの力しかない一登がそれなりの力を得ることさえ難しい。
素質の問題ではない。本当に時間が足りていないのだ。
「……そう、ですよね。無理な事を言ってすみません」
一登は悔しげに、謝罪した。
素盞嗚尊が待ったをかける。
「まあ、そう逸んなさんなって。別に短時間でもやって損はねえさ。ちょっとは戦えるようにしてやる――って感じで話をなあなあにしておきたかったんだが、前世からの親友であるかずたんと千ちゃんのためだ。このすさすさがマジで鍛えてやるよ」
「……素盞嗚尊様」
「おいおい、違うだろ?」
「すさすささん!」
「たまんねえ――親友からそう呼んでもらえるだけで、水で酔えそうだぜ」
「相変わらずうぜえ弟だなぁ」
「ってわけで、姉貴。空間用意してくれ」
「……言っておきますけど、その方法に自分は反対ですよ」
素盞嗚尊と天照大神が睨み合う。
どうやら、修行方法に問題があるようだ。
「姉ちゃんはわかってねえなぁ。男の子には、どんなことをしても強くならなきゃいけない時があるんだよ!」
素盞嗚尊はそう言い放つと、緊張気味の一登と千手に、にかっ、と笑う。
「今から姉ちゃんに空間を作ってもらう。時間の流れは遅く、そして何をしても死なねえ空間だ。ま、姉ちゃんの負担はめちゃくちゃでかいが、気にすんな。ただし、死んだ方がマシだって思っても絶対に死ねねえ。いいか? その空間で、俺が文字通り死にたくなるほど鍛えてやる。辛いだろうが、なっちゃんの足を引っ張らない程度にはしてやるよ」
「かずたん、千手さん。この馬鹿クソ愚弟の言葉に乗ったら、マジで酷い目に遭いますからね」
断れ、と天照大神は言う。
しかし、答えは決まっていた。
「ご心配ありがとうございます。でも、俺、力が欲しいんです!」
「――俺はやりたくねえけど、一登だけをそんな目に合わせられねえから付き合うぜ。その鬱憤は異世界にぶつけることにした」
「呵呵っ! 良い返事だ! そうだろう、なあ、サマエル!」
素盞嗚尊が名を呼ぶと、神域にジャージ姿のサマエルが現れた。
「勝手に人の神域へズカズカと!」
「すまない、少し興味深かったのでのぞいてしまった。素盞嗚尊だけでは心元ない。このサマエルも手伝おう」
「よし! そうと決まれば話が早え! あ、ついでに俺のもうひとりの大親友征四郎くんを呼んでこなきゃ!」
――素盞嗚尊が消え、すぐに戻ってくるとスラックスとシャツといったラフな格好の征四郎が、今まさにビールの缶のプルタブを開けようとしていた。
「え? ちょ、なにが」
「おやおや、そろそろ寝ようとしていたというのに何やらイベントに巻き込まれてしまった予感がしますね」
「あれ? なんで、義政くんまでいるのぉ!? 俺、気づかれないようにしたのによぉ!」
「甘いですよ。僕の領域に入った者は神であろうと認識しますとも」
「え? 何この子、怖い!」
――素盞嗚尊プレゼンツ。どきっ、死にたくなるほど辛い修行in一登、千手、征四郎が始まろうとしていた。