作品タイトル不明
59「説明をどうすればいいんじゃね?」③
「ありがとう、夏樹くん。迷惑をかけているのに、杏のことを探してくれて」
「いいえ、そんな。誠司さんこそ、あの子のことが心配なのはわかりますけど、お身体を気遣ってくださいね」
「――ありがとう」
春子、誠司、サタン、リヴァイアサンと合流した夏樹と小梅は、杏のことを説明した。
ジャックとナンシーは、宇宙船で杏が見つからないか探してくれているが、あと一時間ほどしたら戻ってくる予定だ。
銀子は、警察署署長の父に報告に行っているので、もうしばらく帰りが遅くなるだろう。
東雲、円、星熊童子、虎童子、熊童子はひと足先に家に帰ってもらっている。
一登と千手は、なにか思うことがあって、一緒に行動している。
「……こんな時に言うのもなんだが、大きくなったね、夏樹くん。雰囲気が変わったよ」
「もう中学三年生ですから」
「そうか、じゃあ今年は受験で大変そうだね」
「ええ、まあ、そうですね」
受験と聞き夏樹が嫌そうな顔をすると、ようやく誠司が笑みを浮かべてくれた。
「杏のことでまた迷惑をかけてしまってごめんよ」
「気にしないでください」
「ここにはいないけど、一登くんも探すのを手伝ってくれたことをお礼を言っておいてほしい。彼はいつも杏のことを気にかけてくれているので、その父親としてとても助かっているよ」
「一登はいい奴ですから」
「そうだね、彼のことは小さな頃から知っているから、君と同じように息子だと思っていたよ」
「……落ち着いたら、また遊びましょう。バーベキューとか釣りとか、楽しくなることをしましょうね」
「ありがとう。君はいつも、気遣いができるいい子だね」
誠司は夏樹を撫でようと手を伸ばしたが、はっとして引っ込めてしまう。
夏樹は少しだけ悲しくなった。
かつて誠司は、夏樹の頭をよく撫でてくれた。
父親を知らない夏樹にとって、彼が初めての父親だったのだ。
もう家族ではない。誠司もわかっているから、夏樹の頭を撫でようとして、しなかった。いや、できなかったのだろう。
「春子さん、太一郎さん、リヴァ子さん、小梅さん……娘のためにどうもありがとうございました」
「そんな、誠司さん。顔をあげてください。杏ちゃんも事件性がないようなので、よかったです」
「そうだぜ、誠司くん。うちの小梅も家出娘だったからなぁ。若いと誰でも親に反発っていうのはするもんだぜ」
「……ま、なんかあんたらまた頼ってねー」
「気軽に声をかけてくるとええんじゃよ」
深々と腰を折る誠司に、それぞれが声をかける。
リヴァ子はさておき、サタン、小梅は杏がアテーナーたちと協力関係なことを知っているので、事実を伝えられないことを苦々しく思っているようだ。
「誠司さん、送ります。とてもひどい顔をしているわ」
「……いえ、大丈夫です。そこまでご迷惑をかけるわけには行きません。それに、ひとりで夜風に当たりたいんです」
結局、夏樹たちは杏のことを見つけたが家出を宣言して女友達とどこかに行ってしまったということにした。
杏の交友関係を知らない誠司は、もうどうすることもできないが、少なくとも元気でいることがわかっただけで気持ちは軽くなったはずだ。
今まで、三原優斗という男に振り回されていたので、男友達ではなく、女友達ならば、まだマシだろうと折り合いをつけることができたかもしれない。
誠司はもう一度、頭を下げて背を向けて歩き出した。
母は今度は止めなかった。
サタンも誠司と知り合いだったようで、なんとも言えない顔をしている。
(新たな神々とか、アテーナーとか、正直どうでもよかったんだけど、誠司さんを苦しめやがって。そんなに死にたいのなら、異世界でぶっ殺してやるよ)
かつて父と慕った誠司の背中を見て、夏樹は拳を固く握りしめた。
■
――同時刻。水無月家。
「ま、まさか一登きゅんが夜に自分のことを訪ねてくれるなんて……おまけの千手さんがいなかったら、間違いが起きていましたね」
「……おまけで申し訳ない」
「いえいえ、むしろいてくれてよかったです。しかし、おふたりともどうしたんですか? 自分はこれから糖質オフのビールを飲みながら動画を見ようと思っていたんですが」
サラリーマンの夜のような時間を過ごそうとしている天照大神に、千手は引き攣った顔をしたが、一登は表情を変えなかった。
彼は、水無月家を訪れた時から表情が暗い。
なにかを思い詰めている。そんな顔をしていた。
「――照子ちゃん。いえ、天照大神様」
「な、なんですか、急に改まって」
「――僕を強くしてください!」
床に額をつけ、懇願する一登と、続く千手。
「ほえ?」
天照大神は、予想外の事態に変な声を出した。