作品タイトル不明
54「しょーもない理由じゃね?」
「あ、ぐ、う」
腹部に剣が刺さった杏が呻く。
「なによ、勇者ならこのくらいで泣いてるんじゃないわよ。あんたの大好きな夏樹は、手足がもげようと、自分で治して敵を殺し尽くしたわよ」
「あ、ああ、う」
もう杏は喋ることができなかった。
おそらく、意識が朦朧としていると思われる。
死んでいないのは、与えられた力のおかげだろう。
「――貴様、よくもこのアテーナーを侮辱したな!」
自らの出自を馬鹿にされたせいか、杏との戦いを止めたにも関わらず無視されたことか、もしくは両方か。
アテーナーは顔を真っ赤にして、激昂した。
「だーかーらー、なんであんたみたいな愉快な神の言うことを聞かなきゃいけないのかって聞いてんのよ!」
「許さん。お前たちとの戦いは別世界で行おうと思ったが、この場で殺してやろう!」
「やれるもんならやってみなさい! そうだ、あんたの頭をかち割ってあげる。中から何が出てくるか楽しみねぇ!」
「――貴様っ!」
アテーナーが怒りに任せて動こうとして、動けなかった。
「なぁに? 動いてみなさいよ、なにビビって止まっちゃってるの?」
聖剣さんの挑発する声に、アテーナーは睨むが、動けない。
その理由は、アテーナーを無数の聖剣が覆い尽くしている。
一本一本が聖剣さんよりも力は劣っているが、いくら神でも痛手を負わせるには十分すぎた。
「神ならこんな状況でも前に進むんじゃないの? ほら、やってみなさいって、頑張れ、頑張れ」
「――我を侮辱するな! ――アイギス!」
アテーナーが叫ぶと、大きな盾が現れる。
左腕に盾を持ち、肩まで鎧で覆われた姿は戦乙女だ。
アテーナーは、思い切り盾を地面にぶつけると衝撃波を生み、聖剣を弾き飛ばした。
「そのくらいで終わらないわよ。私はしつこいんだから」
聖剣さんは指をタクトのように振るうと、聖剣が列を作ってアテーナーを襲う。
「ちっ、追尾するのか、面倒なことだ」
アテーナーはランスを虚空から取り出し握ると、聖剣を叩き落とし、盾で防いだ。
一本、一本、確実に砕き、へし折っていく。
「ガープ! 杏を回収しろ! ここは一度退く!」
「おい、マジかよ。俺はこいつを」
「戦わず傍観していたのだ、文句を言うな!」
「ちっ、わーったよ。じゃあな、由良夏樹!」
アテーナーが聖剣を弾きながら、ガープに命じる。
ガープは不服そうにしながらも、従った。
地面を蹴ると、あっという間に杏を抱き抱え、大きく飛ぶ。
「あ、待ちなさい!」
「誰が待つかよ。由良夏樹、続きは異世界でやろうぜ。――ひと足先に待ってるぜ!」
「待ちなさいよ! 何にも戦ってないお前が、見逃してやるみたいな感じで消えていくんじゃないわよ!」
ガープは消えた。
気配もなにもなくなった。
「由良夏樹と、その剣よ。お前たちの力は理解した。神を殺せる力はあるだろうが、我には及ぶまい。我もまたお前たち程度に力をすべて出すことはない」
すべての剣を叩き落としたアテーナーも空に浮く。
「ふざけるな、ブス置いてけ! あのブス置いていきなさいよ!!」
「我は宣言しよう」
「聞きなさいよ!」
「我は新たな神々と組み、新たな神話を作り上げる」
「誰もそんなこと聞いてないわよ!」
「父ゼウスの頭が割られて生まれた処女神などもううんざりだ! 我は新たな神話を作り上げ、真っ当な生まれの乙女として、毎日合コン三昧のパーティーピーポーになるのだ!」
「そんなくだらない理由が行動理由で、あんたそれでいいの!?」
「無論! 我だって少女漫画のような恋をしたい!」
「少女漫画のような恋をしたけりゃ、合コン三昧は諦めなさいよ!」
「嫌だ! 我はかつて得られなかった素晴らしき青春を手に入れるのだ!」
そう高々に宣言すると、アテーナーは消えた。
「……恐ろしい神ね。まさかあんなくだらない理由を堂々と語るなんて」
(う、うん。なんかちょっと同情しそうになったけど)
「あのブスは逃すし、神たちはいつの間にかいなくなってるし、ああっ、もうすっきりしないわ!」
不満そうな聖剣さんは、肉体の主導権を夏樹に返した。
夏樹は身体を伸ばす。
自分とは戦い方が違う聖剣さんに使われた肉体は、疲労と疲弊が蓄積されていた。
「……なんていうか、アテーナーももっとまともな理由で新たな神々に与しててほしかったなぁ」