作品タイトル不明
53「聖剣さん容赦なさすぎじゃね?」
聖剣さんの一撃を受け止めた杏は、不敵な笑みを浮かべた。
「あ、そ」
だが、聖剣さんは特に気にすることなく剣を握っていない方の拳を固めて杏の顔面に叩き込んだ。
「ぶえっ!?」
再び鼻血が飛ぶ。
聖剣さんは、杏の膝に蹴りを入れてバランスを崩させると、もう一打拳を顔面に叩き込んで背中から彼女を倒してしまう。
そして、馬乗りになった。
「一撃受け止めたくらいで気を抜くとか、ばーか!」
「――ひ」
聖剣を消し、拳を握りしめると、
「ま」
何かを言おうとした杏の声を無視して、容赦無く拳を振り下ろした。
ごっ、と音が響く。
一度ではない。
聖剣さんは、二度、三度、四度、五度、と拳を振り下ろす。
(ひえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ)
夏樹は心の中で震えた。
異世界でも聖剣さんは容赦がなかった。
敵対した相手は、即座に殺す。
癪に障る相手ならば、心をへし折ってから殺した。
機械的に敵を殺してきた夏樹も容赦なかったが、聖剣さんも負けないくらい容赦がなかった。
そんなふたりが契約をしたのだ、人間だろうと魔族だろうと束になっても勝てるはずがない。
(懐かしいというか、相変わらずおっかないなぁ! そういえば、異世界でとある公爵が奴隷を躾けたいから聖剣を使わせろ、とかアホなことを言ったときに、俺の身体を乗っ取って後遺症が残るほど殴ったもんね。俺の腕はおっさんの血まみれ、騎士に追われて、結局その領地は壊滅させちゃったんだよねぇ)
夏樹が過去に思いを馳せている間に、杏の顔はこれでもかと殴られ続けていた。
形の良かった鼻は折れ、瞼は腫れ、整った唇は裂けている。
これでもかと言うほど力を込めて殴っているのだが、あくまでも夏樹の肉体を使っただけの全力であり、魔力は込めていない。
そのおかげで杏は死ぬことはないが、今まで味わったことのない激痛に苦しんでいる。
最初こそ抵抗しようとしていたが、すぐに無抵抗になった。
「あら、もう抵抗しないのね。じゃあ、次は手足を折ってあげる」
(うわぁ)
夏樹であれば、もうここで殺している。
聖剣さんは気に入らない相手にはとことん嗜虐的だ。
「――そこまでだ」
凛とした女性の声が響いた。
すべての物を威圧する神気が声に伝わり、聖剣さんも、ガープも学校の神も硬直する。
「我が選んだ勇者を連れていくのでなにをしているかと思えば、ガープ。アマイモンはお怒りだ」
「……ちっ」
黄金の髪を靡かせた女性は、古い時代の西洋人が身につけていたキトンを着用し、皮で編んだサンダルを履いている。
彼女の名はアテーナー。
ギリシア神話を代表する、オリュンポス十二柱の神だ。
「勇者が失礼をした。この戦いはアテーナーの名において私が預かろう」
有無を言わさぬ威圧。
常人ならば、跪き首を垂れるだろう。
しかし、聖剣さんは違った。
「はぁ? なんであんたみたいな主神の頭を割ってこんにちはして生まれた意味わかんない女神の言うこと聞かなきゃいけないわけ?」
そう言い放ち、聖剣を手に握ると、杏の腹部に突き立てた。