作品タイトル不明
49「聖剣さんが戦うんじゃね?」②
聖剣さんは、聖なる雷が剣の形状をした力の集合体だ。
あくまでも剣は、わかりやすい力の象徴として形を作っているだけ。
彼女の真の姿は――。
■
(ちょ、聖剣さん。そんな強引に)
「黙ってて、あんたは戦い辛いでしょう」
(いんや、別に)
「戦い辛いでしょう!」
(うっす! お気遣いありがとうございます!)
「わかればいいのよ」」
どうやら聖剣さんは夏樹が血縁はなくとも、一度は家族だった杏と戦うことを良しとしなかったようだ。
また、かつて義父として慕った誠司への葛藤も汲んでくれたのだろう。
杏は、夏樹の大事にする家族たちを傷つけるといったので、殺すと決めたが、杏に対するためらいはさておき、こんな子でも死ねば悲しむ人がいることを気にしていた。
「……お兄ちゃんとひとつになったの?」
「そうよ。羨ましいでしょう? ハンカチを噛んでぐぬぬって言っていいのよ」
夏樹の顔で、聖剣さんの声で、杏を馬鹿にしたような態度をとると、彼女は悔しげに唇を噛んだ。
よほど苛立っているのだろう、彼女の霊力が強くなっているのがわかる。
「お兄ちゃんと代わって! 杏はお兄ちゃんに用があるの!」
「嫌よ。夏樹は私で、私は夏樹なんだもの」
「なにそれ! 意味わかんない!」
聖剣さんの言葉はなにも間違っていない。
かつて異世界に呼ばれたばかりの頃、すでに異世界人に嫌悪を覚え、帰還方法を必死に探す夏樹は聖剣さんと契約をした。
死が二人を分つまで共にあり続けると、契約し、一心同体になった。
夏樹が死ねば、聖剣さんも死ぬ。
聖剣さんが死ねば、夏樹も死ぬ。
そういう契約だ。
「あんたがわかんなくてもどうでもいいの。それよりも、早く構えたら?」
「――っ! いいもん! じゃあ、お前を倒してお兄ちゃんを取り戻すから!」
「やってごらんなさい。言っておくけれど、私の方が夏樹よりも強いからね?」
杏が魔剣を構えるよりも早く、聖剣さんが地面を蹴った。
あっという間に杏の眼前に移動すると、反応できずに目を白黒させる彼女の腹部に拳を叩き込んだ。
身体をくの字に折った杏は、そのまま地面に膝を着いてしまう。
聖剣さんがつまらないと言わんばかりに鼻を鳴らしてから一歩引くと、杏は胃液を吐き出した。
「あらあら、きったないわねぇ」
吐瀉物を避け、杏を見下ろす聖剣さんは心底つまらなそうな顔をしていた。
「武器は最高と言える剣を持っているのに、使い手がこれじゃあ宝の持ち腐れよね。錆びて朽ちた方が剣的にも幸せなんじゃない?」
「なめっ、るな!」
杏は立ち上がると同時に、剣を振るう。
だが、使い慣れていない魔剣を十全に振るうことができず、剣速はあまりにも遅い。
聖剣さんは、自らが持つ聖剣で魔剣を受け止めると、握りしめた拳でためらいなく杏の顔を殴りつけた。
「ぶふっぁ」
杏が鼻を抑えると、指の隙間からぼたぼたと血が流れる。
痛みを覚えながら、それでも聖剣さんを睨むのは、杏の意地なのだろう。
しかし、聖剣さんはそんなことはどこ吹く風とばかりに剣を振るった。
「――あ」
次の瞬間、甲高い金属音と共に魔剣が宙を舞い、地面に突き刺さった。
無手となった杏の首に、聖剣の先端を向ける。
「ま」
「さようなら」
雷鳴と共に聖剣さんは剣を振るった。
――しかし、その剣は杏を斬り裂かなかった。
「へえ」
雷は杏を焼き、火傷を負わせたが、殺せなかった。
聖剣さんは明確な殺意を持って杏を斬ろうとしたが、間に入った女性の腕によって受け止められている。
もっとも、その女性の腕もあと少しで斬り落とせるほど食い込んでいる。
「――想定していたよりも難敵だな、由良夏樹」
「あら、あんた喋れるのね」
「無論。必要がないから黙っていたに過ぎない」
「そういうのどうでもいいの」
聖剣さんは女性の言葉を聞く気はなく、剣を握る手に力を込める。
すると、女性の腕が斬り落とされ、刀身が自由となる。
「じゃあ、あんたもさようなら」
それだけ言うと、聖剣さんは女性と共に杏を貫いた。