作品タイトル不明
48「聖剣さんが戦うんじゃね?」①
異世界を管理する立場にありながら、滅びに誘おうとした――魔神。
彼女の存在理由は夏樹もわからない。
人間があまりにも醜かったから絶望したのかもしれない。
魔族と人間の殺し合いに呆れたのかもしれない。
単に、この世界に飽きたのかもしれない。
だが、どれだけ考えても、夏樹には魔神の心中を知ることはない。
すでに殺しているからだ。
■
「……まさか魔神さんの剣を持っているとは思わなかったなぁ。あれってどういう力を持つんだろ?」
「知るわけないでしょ。魔神がドヤ顔で剣自慢を始めようとした途端、夏樹が腕ごと切り落としたんじゃない」
「だよねー。さすがになっちゃんも話が長くなりそうだったからつい、ね」
「……あんたは誰一人として戦った相手の話を聞かなかったけどね」
「記憶にございません!」
夏樹はかつて魔神と対峙した。
魔法を繰り広げ、空間を歪ませ、亀裂を生み、世界が軋むほどの戦いを繰り広げた。
夏樹を排除する脅威と看做した魔神が「いいだろう。貴様にはこの魂喰らいを抜くに値する。ふふ、この剣は――」となぜか手を止めて語り出したので、隙ありと腕を切り落としてやった。
その後、剣の行方は知らない。
まさか魔神の剣が杏の手に渡っているなどとは、想像したことさえなかった。
「……ぱっと見は、「魔剣魂喰らい」なんて名前だから魂を喰らうんじゃね?」
魂をどう喰らうのか想像できないが、似た様な名前の魔力や体力を奪う剣は存在する。
魔神が持っていたのだから、その最上位版と考えていいだろう。
剣で迎え撃つならまだしも、斬られるなどすれば面倒臭いことになりそうだ。
「……お兄ちゃん、かわいそう。堕天使に惑わされた挙句、悪霊にまで取り憑かれて」
聖剣さんと会話する夏樹を、杏は「悪霊憑き」と判断したようだ。
悪霊扱いされた聖剣さんの頬が引き攣ったのを夏樹ははっきりと見た。
「……へぇ、これが夏樹の妹なのね――めちゃくちゃブスじゃない!」
「――――――な」
聖剣さんも負けていない。
可愛い唇を大きく開いて、杏を思い切り罵倒した。
「さっきから聞いてりゃ、なにその媚びた声でお兄ちゃんって、ブスが媚び売ったってブスなんだけど。というか、自分のことを杏とか名前で呼ぶ女ってマジできらーい!」
「な……な、な」
聖剣さんの言いたい放題に、杏は口をぱくぱくさせている。
幼い頃から可愛い可愛いとチヤホヤされて、最近まで三原優斗にも可愛いと大事にされていた杏にとって、聞くに耐えない言葉だっただろう。
(……聖剣さんのほうがめっちゃ美少女だから、言葉に力があるわぁ)
「うわぁ、女の子ってこわぁ」
ガープは、聖剣さんと、罵声を受けて震える杏を見て、震えていた。
「夏樹」
「へい!」
「身体を貸しなさい」
「え?」
「いくらブスでも一応は一つ屋根の下で暮らしていたことがあるんでしょう。かわいそうに、こんな媚びた雌豚と一緒に暮らさなきゃいけないなんて同情するわ」
「――め」
聖剣さんはさらに杏を煽る。
「ていうかさ、自分が一番可愛いって思っている女ってきもいんだよ!」
「……許さない! 杏のことを、お兄ちゃんの前で、こんなに馬鹿にして!」
「いや、事実しか言ってないし。あんたはブスだし、気持ち悪し。え? なに、無自覚だったの? 本当に残念な奴ね」
「――っ」
聖剣さんは夏樹の身体に手を回し、見せつけるように笑う。
杏が唇を噛んだ。
「あんたみたいなブスにも、私は優しいから現実を見せてあげる」
聖剣さんは虚空から聖剣を引き抜き、夏樹に手渡す。
「あんたみたいなブスは、一生孤独なのよ!」
聖剣さんは挑発的な顔をすると、夏樹とひとつに重なる。
「――かかってきなさい、ブス。上っ面も中身もブスなあんたを、けちょんけちょんにしてあげるわ!」
夏樹の姿をしながら、聖剣さんの声と意思で彼女は聖剣を握りしめた。