作品タイトル不明
47「深夜の戦いなんじゃね?」②
夏樹は感情を切り替えた。
綾川誠司のことを思い、穏便に済ませたかった気持ちは今もある。
かつて父と呼び、家族だと思った彼を悲しませることは望んでいないのも本心だ。
しかし、杏の言動は、夏樹の逆鱗に触れた。
杏によって家庭が壊れ、母ひとり子ひとりの生活から、賑やかな家族が増えたのだ。そんな家族に害を与えるというのなら、もう情けなど必要ない。
「――常闇の剣」
虚空から漆黒の剣を抜く。
できることなら聖剣を使い存在そのものを消し飛ばしたかったが、まだ聖剣さんは茨木童子との戦いで消耗して休んでいるので力を借りることができない。
せめて、苦しむことも、自分が死んだことさえ気づかずに殺してやろうと思ったが、残念だ。
「あははははは! やっぱりお兄ちゃんは勇者なんだね! アテーナー様やぜっくんに聞いた時にはなにを言っているんだと思ったけど、本当に勇者なんだ! ふふっ、杏と同じだね! 勇者カップルになれるね!」
夏樹はもう彼女との問答を繰り返すつもりはなかった。
魔剣の切先をガープと静観を続ける女に向け、問う。
「あんたらはどうする? 俺はやることがたくさんあるんだ。ひとりずつだと面倒から、三人まとめてかかってこい」
「笑わせるな小僧。誰が三人で戦うと言った! 貴様はこのガープによって四肢を千切られ、犬の餌にされるのだ!」
「――ガープさん。お兄ちゃんは私がやるから」
「……なに?」
「――ガープさん。お兄ちゃんは私がやるから」
「お、おい」
「――ガープさん。お兄ちゃんは私がやるから」
「……はい」
「頑張れよ、ガープ!」
笑顔を浮かべているのにまるで笑っていない杏の圧に、ガープは屈した。
夏樹もちょっと顔を引き攣らせる。
あれほど殺しに来たと豪語していたのに、あまりにも情けなかった。
「べ、別に俺が出ずとも杏さんの力で十分だ!」
「……お前、残念な魔族だなぁ」
言い訳まで始めるガープは手を出してこないだろうが、おそらく隙がわずかにできれば襲いかかってくるだろう。
もうひとり、今も無言を貫く女性は相手にしても仕方がないので、襲いかかってくるのであれば殺せばいいと判断した。
「お兄ちゃん……杏ね、お兄ちゃんのために頑張るからね。お兄ちゃんを傷つけたくないけど、悪い堕天使に騙されているお兄ちゃんの眼を覚ますためなら、手足を斬り落としてでも連れて帰るから!」
「やれるもんならやってみやがれ!」
夏樹が舌を出すと、杏は自身の影から抜き身の剣を引き抜いた。
「――な」
夏樹は絶句した。
杏が剣を持っていたことではない。
彼女が影に剣を隠していたことでもない。
「ぜっくんからもらった聖剣だよ! お兄ちゃんも聖剣を持っている様だけど、杏の方が格上なんだって!」
赤黒い刀身に、血管のような筋が脈打つ禍々しい剣はもちろん聖剣ではない。
「夏樹っ!」
眠っていた聖剣さんが慌てる様に顕現する。
杏が、聖剣さんを認識し、眉を潜めた。
「聖剣さん? 体調は? 寝てなくていいの?」
気遣った夏樹に、聖剣さんは大きな声を出す。
「そんなことどうでもいいのよ! あの小娘が持っているのは」
「あー、やっぱりそうだったかぁ。どこかで見覚えがあると思った」
杏の持つ剣は、かつて魔王を操り、世界を破滅に導こうとした魔神が持っていた魔剣だった。
「魂ぱっくんソードだ!」
「なんで素直に魂食らいって言えないのよ! このあんぽんたん!」