作品タイトル不明
46「深夜の戦いなんじゃね?」①
「ねえ、なんでガープさんは杏が話をしているのにお兄ちゃんとお話ししているの? 杏の気持ちをお兄ちゃんに伝えているのに、邪魔をするの?」
「あ、いや、そういうわけじゃ……ごめんなさい」
「謝るなよぉおおおおおおおおおおおおおお!」
「……俺、こういう女怖いんだよ」
「魔族のくせに」
「そういう差別は良くないと思います!」
「うぜぇえええええええええええええええええええええ!」
夏樹を潰すために杏と、神力を持つ女性と共に現れたガープだが、様子のおかしい杏に対し怯えた様子を見せている。
仮にも夏樹を殺しにきたのだから、もう少し威厳や魔族らしい態度でいてほしいと思ってしまう。
「……と、とりあえず、俺は後でいいや。どうぞ、杏さん!」
「うん。ありがとう、ガープさん。それでね、お兄ちゃん」
「赤の他人なんでお兄ちゃんなんて呼ばないでくれますぅ?」
「………………」
杏の瞳から光が消えた気がした。
学校は電気がすべて消されているが、隣接する道路の街頭がうっすら夏樹たちを照らしている。
もともと夏樹は夜目が効くので、これくらいの暗さなら問題なく見える。
そんな夏樹の前で、杏が俯くとぶつぶつと何かを呟く。
しかし、聞かせるつもりが無いのだろう、聞こえない。
「……お前が勇者になったとかそういうのはどうでもいいんだ。くっだらねえ神々に利用されて、何が勇者だ。誠司さんにあんなにいい人に迷惑をかけて、心配をかけて、お前は一体なにをしたいんだよ!」
夏樹の心からの疑問だった。
三原優斗に入れ込んだのは恋心もあったのかもしれないし、彼の勇者の力の影響もあっただろう。夏樹が杏と再会した時には、影響下になかったことではっきりと原因はわからない。
それでも、優斗に悪影響を受けているのだろうとは思っていた。
杏の言動は迷惑であり、鬱陶しく、嫌悪もしている。だが、情状酌量はあると考えていた。
何よりも夏樹が何かしたことで誠司が悲しむ結果になることは望んでいない。
しかし、優斗がいなくなっても杏はなにも変わっていない。
勇者になったと本人は言っているが、夏樹が視る限り、違う。
――綾川杏は勇者ではない。
三原優斗のように、三原一登のように、そして自分のように勇者が勇者たらしめる力を彼女は持っていない。
勇者なんて存在は曖昧だ。
力がある者が強い敵を倒して勇者だと言えば、それで勇者だ。
勇者に確実な定義などない。
それでも、杏は勇者ではないと断言できる。
霊力はそれなりにある。
以前は感じなかったが、なんらかの要因で目覚めたのか与えられたのかしているのだろう。
しかし、人間の範疇でしかない。
勇者と呼べるほど、強くない。
「……お兄ちゃん」
「だから俺を……あー、もういいや。それで、理由くらい話してくれるんだろうな?」
「杏はね、ずっとお兄ちゃんが好きだったの」
「あ、そ」
「だからね、お兄ちゃんの気を引きたくてあのクズを好きなふりをしていたんだよ」
「――は?」
「あのクズを利用しようとしたんだけど、あいつの力のせいで杏は変になっちゃったの。ガープさんやアテーナー様に聞いたんだけど、やっぱり杏はあのクズに騙されていたんだって。――可哀想だよね?」
「いや、全然可哀想なんて思わないから」
「だからね、お兄ちゃんを取り戻そうと思ったの」
「……やっぱり会話が噛み合ってないよなぁ」
「でも、お兄ちゃんは悪い女と、悪い奴らに騙されて杏を見てくれないから――みんな殺してあげるね」
「――なるほど」
夏樹はガープを見る。
彼は首を横にぶんぶん振ると、
「精神面にはなにも手を加えてない。力を欲していたので与えただけだ。ちなみに俺じゃなくて、アテーナーがな」
「そっかそっかそっか」
十分すぎるほど理解した。
綾川杏は、正気でありながら夏樹の家族を傷つけると言った。
いや、正気ではないのかもしれないが、そんなことは些細な問題だ。
夏樹が杏の事情など思い遣ってやる必要はない。
「俺さ、今までお前のことはうざいとかきもいとか思っていたんだけど、いやー、失敗したね。なっちゃんのお馬鹿さん! ――てめぇは敵だ、殺してやる」