作品タイトル不明
45「その頃、異世界の祐介くんじゃね?」
ごんっ、ごんっ、ごんっ。
何度も扉を何かで叩かれる。
狭い倉庫の中に轟音が響く。
「な、なんで僕ばっかりこんなことに……今頃、夏樹くんと一登くんと千手さんと征四郎さんはラブコメしているんだろうけど、僕だけはなぜかホラー!」
倉庫の奥で震える 佐渡祐介(さわたりゆうすけ) は、異世界に二度目の召喚をされた勇者である。
一度目の召喚では、種馬扱いされて命を散らされたという散々なものであった。
せっかく地球に戻ってこられたというのに、二度目の召喚だ。
しかも、帰還してからまだ三週間も経っていない。
「こんなのあんまりだぁああああああああああああああああああああ!」
――がんっ!
「ひえっ」
どうやら扉を叩いていたのは鈍器ではなく、斧だった様だ。
赤く錆びた斧の刃が、扉を突き破り倉庫の内側に露わになる。
ゆっくり斧が扉から引き抜かれると、扉の亀裂から自分を召喚したのであろうベアトリス・ブレスコットが覗いていた。
「勇者様。急に故郷から召喚されてしまい不安なことはわかりますわ。ですが、ご安心ください。このベアトリス・ブレスコットが勇者様を支えますわ!」
「ひえぇ」
「まずはお互いのことを話しましょう。きちんとわたくしのことを知ってくだされば、きっと深い仲になれると思うのです」
「む、無理ですぅ」
涙声で訴えると、返事があったことを前向きに受け取ったベアトリスは饒舌に語り出す。
「わたくしは先代勇者由良夏樹様と相思相愛でした。しかし、憎き魔王との戦いで……勇者様は散ってしまったのです」
(さっきも同じこと言いやがって、どれだけ夏樹くんとラブラブだったアピールしたいんだよぉ! 嘘つけぇええええええええええええええええええええええ!)
本人がいないからと呼吸する様に嘘をつくベアトリスに、祐介は恐怖を覚えてツッコミは声に出さず、心の中だけにした。
「夏樹様との逢瀬は今でもわたくしの大切な思い出です。本来ならば、愛しい人のために喪に服すのが正しいのかもしれません……ですが、夏樹様が作ってくださったこの勢いに乗り魔族を倒すことこそ、夏樹様の望み!」
(夏樹くんは絶対どうでも良いっていう! かけても良いよ! 僕の秘蔵のモンスターのえっちな本を!)
「現在、複数の勇者を名乗る人間が我が国に召喚されており、それぞれ動き始めました」
「――え?」
「ですが、わたくしが召喚したあなたこそ本当の勇者様です。このベアトリス・ブレスコットの名のもとに、あなたは真の勇者様です! 保証いたしますわ!」
(そんな保証いらないよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!)
絶叫しながら、祐介のどこか冷静な部分が、他の勇者がすでに動き出していることに動揺する。
祐介が召喚された時間軸は、もっと未来だ。
祐介がこの世界で死んだあとに、魔族に敗北しかけた人間が世界を滅ぼす様な何かをしでかすらしい。
だが、この世界に暮らす人間や魔族はさておき、この星が滅びることを良しとしないなにかの意思に従い、本来はこの世界を管理するはずの魔神の代わりにゴッドが管理を始めた。
ただし、その際、時間を戻している。
その代償として、祐介が夏樹が異世界から帰還してすぐの時間軸に召喚されてしまったのだ。
ここまでは理解できる。
(……僕以外の勇者がいて、各自勝手に動き出すなんて! 異世界に変化が起こり過ぎでしょう! ゴッド!)
本来ならば、いずれこちらの世界に来てくれるであろう夏樹たちのために外に出て情報収集するべきなのかもしれない。
だが、祐介はこの世界にトラウマがある。
尊厳を奪われ、辱められた。
一度は乗り越えたと思っていた。
この世界に来ることを覚悟していたが、夏樹たちと一緒ならば大丈夫だと考えていた。
――しかし、たったひとりで召喚されてしまった祐介の心は折れかけていた。
「怖がらないでください、勇者様。夏樹様を支えた様に、わたくしが支えて差し上げますから」
ベアトリスは微笑んでいるのだろう。
しかし、祐介からは、こちらを隙間から覗く瞳しか見えない。
その瞳も、祐介を品定めしている様な、どこか焦っている様な様子だ。
「勇者様が混乱しているのであれば……少し強引な手をとらせていただきますね」
ベアトリスはそう宣言すると、隙間に指を差し込むと力任せに扉を引っ張ってこじ開けた。
「……ひいっ」
靴を鳴らして倉庫の中に入ってきたベアトリスはスカートを掴んで優雅にお辞儀をした。
「改めまして、ご紹介を。わたくしは、ベアトリス・ブレスコットと申します。この国の王女であり、勇者様をお支えする――聖女ですわ」