作品タイトル不明
38「主張を強くすればいいってもんじゃなくね?」②
「……アポローン殿……まさかあなたまで新たな神々に」
「そんなまさか! あの絶望の神ぜっくんという神と僕は感性が合わないね!」
そう言った青年は――アポローン。
ゼウスの子であり、羊飼いの守護神にして光明の神であるオリュンポス十二柱の一柱である。
そして――太陽神でもある。
「新たな神々に与してはいない、と」
「無論。ただ、暇を持て余している神としては、絶望の神というふざけた神以外なら考えてあげてもいいがね。――冗談だ、睨まないでほしいよ」
「冗談にしてはわらえないですね。それで、はるばる日本の地方都市にどのような御用で?」
「気になるのかい? はいはい、答えればいいのだろう。僕はアテーナーを止めにきたのだよ」
「アポローン殿が自ら?」
「そうさ、月読命殿」
緩やかな癖がかかった美しい髪を指で撫でながら、アポローンは素直に告げる。
「父上――ゼウスは休暇中だからね。居場所は月読命殿が良く知っているはずだ」
「ええ、なぜかこの街は神や魔が集まるので困っています」
「ふふふ、魔境と言ったら失礼かな。現在は、ヘラー様を中心に、オリュンポス十二柱でギリシア神話をまとめているのだけど、なかなかまとまらなくてね。やはり父ゼウスは偉大だったと言うことだろう」
「アテーナー殿の離反の理由をご存知ですか?」
「もちろんだとも。だが、面白くないので言わないことにしよう」
「……アポローン殿」
「そう怖い顔をしないでほしい。彼女の離反理由は取るに足らないことさ。神や魔なら誰でも一度は思う麻疹のようなものなのだが、元がお堅い性格ゆえに短慮に走ったようだね。まったく」
アポローンはアテーナーの行動理由をここで明かすつもりはないようだ。
月読も特にアテーナーの事情を知る必要ないと考え、追求はしなかった。
どちらにせよ、絶望の神に与したのは事実である。
アポローンたちが彼女にどのような罰を与えるか知らないが、説得なり倒すなりしてくれれば手間が減る。
「期待した目を向けられているのに申し訳ないが、あまり力になれないと思うよ」
「……なぜでしょうか?」
「説得はしよう。馬鹿なことはするな、くだらぬことはするな、と言葉を尽くそう。しかし、堅物なアテーナーが僕の話を聞くとは思えない。だが、その場合、僕は彼女と戦わないよ。僕と彼女が戦えば被害が大きいだろう。君が目をかけている少年……名は、由良夏樹だったね。彼に任せればいい」
「……彼はまだ子供です」
「だが、強い。好ましいほど強い。一度、僕の故郷に招いて遊びたいほど興味がある」
「アポローン殿」
「無論、そんなことはしないさ。神は神秘的にこっそり生きるものだからね」
にこにこと微笑むアポローンの真意は月読命には読み取れなかった。
聞いても答えないだろう。
「アテーナーを殺すか殺さないかでオリュンポスも揉めているのさ。僕としては、彼女が醜態を晒すくらいなら殺してやったほうがいいと思っているのだが、神々にも彼女は人気でね。下っ端の神やその使いが今にもついていきそうで大変さ。殺してしまえば、もっと面倒になる」
「そんなアテーナー殿を人間の子が殺せば、もっと問題が出る気がしますが?」
「だろうね。だが、それを乗り越えて勇者だ」
「……貴様」
「おおっ、こわいこわい! だが、神は力を持つが、できることには限界がある。僕たちのような存在よりも、人間のほうはよほど可能性に満ちている。だから僕は人間が好きなのさ」
優しい顔のアポローンの言葉に嘘はないと月読命は感じ取った。
(夏樹くんも面倒な神に目をつけられましたね)
素盞嗚尊ほど面倒ではないのが救いだが、面倒になることは違いない。
できる限りのフォローをすることを決めた月読命は、アポローンに気になっていたことを問いかけた。
「ところで、ずっと気になっていたのですが――なぜあなたは中学校の制服を着ているのでしょうか?」
「――学園もののラブコメに憧れているのさ! せっかく日本の中学校に来るのなら、制服を着ることが礼儀ではないかな!」
「あ、はい」
神はいつだってやりたい放題だった。