作品タイトル不明
37「主張を強くすればいいってもんじゃなくね?」①
月読命は、夏樹たちが通う中学校の屋上に立ち目を瞑っていた。
「――やれやれ。まさかアスモデウスとガープに続き、フルカスとアテーナー神まで絶望の神につくとは思いませんでしたね」
ゆっくりと目を開けた月読は、表情を能面のように消していたが、少しだけ頬を緩めた。
「まさか夏樹くんが、頭に被ろうとしたお皿が破られたことでフルカスを殺してしまうとは思いませんでした。彼はマモンなどの魔族に比べても力は下であっても、ああもあっさり殺せるほど弱いわけではないのですが……末恐ろしいですね」
月読見た限り、夏樹は七割と言っていたが彼から感じ取った内側の力から察するに、フルカスを倒したときの力は五割ほどだった。
茨木童子との戦いで使える力が増したのか、本人が自分の力を把握しきれていないのか、もしくは――今も大きく成長しているか、だろう。
「絶望の神もあと少しでしたね。奴は絶望させることも絶望することも好きなので戦いにおいて甘いところはありますが、夏樹くんの力を見誤ったようですね」
かつて月読命を絶望の神がスカウトしにきたことがあった。
月を司る神に向かい、「影の薄い神」と呼んだ挙句、「影の薄い神として新たな神々と共に神話を作ろうではないかっ!」と無礼な誘いをしたのだ。
月読命が新たな神々を敵視するには十分すぎる理由だった。
「問題はアテーナー神ですね。彼女は控えめに言って強い。鍛錬嫌いなせいで全盛期よりも弱体化している愚弟《素盞嗚尊》と違い、彼女は神話の時代と変わらずの力を持っている。いいや、彼女を認知し、崇める存在が増えたことで、力が増したと言ってもいい」
月読命自身が戦って勝てるかどうかは不明だ。
負けないとは思うが、勝てるとも思えない。
アテーナーは数々の逸話を持ち、戦力も高い。
仮に、月読命が彼女を殺すと、ギリシア神話と日本神話が揉める可能性も出てくる。
「……はぁ。早いところ、新たな神々に与した神魔は殺しても良いという取り決めができるといいのですが……神や魔は上層部になるほどマイペースですからね」
好き勝手している魔族でさえ、制約は多い。
実際、サタンは向島市で生活をしているが、「人間の生活」という範疇を越えることはしていない。
また、サタンは行動が早く、アマイモン、ガープ、フルカスを殺しても問題にしないと早々に声を上げている。
誰も殺せず、目に余るようであれば、サタン自らが動くとも公言している。
だが、ギリシア神話の神々はアテーナーを殺すことに関して、何も言わない。
ゆえに手出しできない。
「人間が神や魔族を殺す分には問題がないのですが……夏樹くんたちばかりに重荷を背負わせることは神としても教師としても良しとできないのですけどね」
現状、夏樹がアテーナーを殺すのであれば、咎める神はいない。
実際は、良く思わない神は出てくるだろうし、彼の力に目をつける者も出てくるので問題はあるのだろが、月読命が出張ってアテーナーを殺すよりも面倒は少ない。
「神の割には人間のように堅苦しく考える男であるな」
不意に、月読命の背後から若い男の声が響いた。
気配はとうに感じ取っていたため、驚くことはしない。
ゆっくり振り返る月読に、燃えるような白金色の髪を持つ青年が笑った。
「あーぽーろんろんろんろんろんろんろんろんろんろんろんろんろんろんろづっ、あ、舌噛んだっ!?」
〜〜あとがき〜〜
……何者なんだ!?