作品タイトル不明
35「絶望の神に絶望させられたんじゃね?」③
「我が名はフルカス! 二十の軍団を率いる地獄の騎士である!」
「俺は悲しみのギャラクシー河童勇者由良夏樹だ。魔族なんだろうけど、新たな神々に与するなら、俺のお皿さんを弔うために殺してやる」
「良い殺気であるな! ぬぅううううううううううううううん!」
槍を相手にするとリーチの問題で剣が不利になる場合が大半だ。
だが、それはあくまでもただの剣の場合だった。
夏樹の持つ剣は魔剣。
しかも、異世界で魔王が握っていた魔剣――常闇の剣である。
剣の長さなど些細な問題でしかなった。
「常闇の剣よ――裂けろ」
夏樹の命により、常闇の剣は二振りとなる。
「なんと!」
驚きながらも楽しそうな笑みを浮かべて槍を夏樹に突き出す老騎士――フルカスの一撃を、左手に持つ魔剣でいなし、右手に持つ魔剣で馬の首を斬り落とした。
「我が愛馬よ!」
夏樹の背後で絶命した馬から飛び降りたフルカスが、着地すると再び槍を構える。
追撃がくると理解し、振り返ろうとした夏樹に、
「フルカス殿! この少年の力は絶望の先にあるっ! 残念だがっ、ここで殺しておくべきっ、だっ!」
「承知した!」
血まみれのぜっくんが魔力の砲撃を放った。
同時に、背後からフルカスが槍を真っ直ぐ夏樹の心臓を狙う。
「さらばだっ、由良夏樹! 君とはもっと違う形で絶望したかった!」
勝った気になっているぜっくんに、夏樹は冷めた目を向けると、魔力の砲撃を左に持つ魔剣で斬り消すと、右手に持つ魔剣を自らの胸に突き立てた。
「――――――な」
夏樹を貫いた魔剣が、背後に迫る槍を弾いた。
「常闇の剣よ――敵を焼き貫け」
夏樹を貫く魔剣に業火が宿り、刀身が伸びる。
その速度はあまりにも早く、地獄の騎士を名乗るフルカスがわずかに反応できただけ。
せめて得物があれば変わっただろう。
しかし、フルカスの槍は夏樹によって弾かれ、宙を舞っている。
「――見事」
フルカスの額を常闇の剣が貫いた。
業火によってフルカスの肉体が内側から外側から焼かれていく。
数秒も経たずに身に纏っていた鎧ごと灰となった。
「……なんという絶望的な強さっ。こ、これはたまらんっ」
夏樹は自らの身体を貫く魔剣を引き抜く。
夏樹に肉体はおろか、衣類さえ傷ついていない。
「どんなトリックかな!?」
「俺を所有者に選んだ剣が俺を傷つけるわけがないだろ」
「絶望的に理不尽だっ!」
絶望しているのか悦んでいるのかわからない絶望の神の前に立ち、夏樹はひと振りに戻った魔剣を頭上に掲げた。
別れの言葉はすでに伝えてあるので、なんの躊躇いもなく一気に振り下ろした。
――だが、夏樹の剣は不可視の壁によって弾かれた。
「おいおい、しらけるな。ここで逃げるのか?」
「私の望むところではない! ここで生かされるとは絶望的に屈辱っ、だ!」
ぜっくんの望む結果ではなかったのだろう。
だが、彼は生きながらえた。
今の夏樹では、この不可視の壁を斬ることはできない。
「今度は神様かよ。面倒くさいんだよ、あんたら!」
ぜっくんの背後に立っているのは、女性だった。
黄金の髪を靡かせ、古い西洋の人が着ていたキトンを身につけていた。
彼女からは、先ほどのフルカスが霞むほどの力が放たれており、夏樹でも威圧されそうだ。
「我が名は、アテーナー。オリュンポス十二神の一柱である」
「くっそビッグネームきやがったな。だけど、残念だ。今の俺には嬉しくもなんともない」
「我に戦う気はない。我の目的は、絶望の神の回収だ。こんな神でも、これからの計画を進めるにいないと面倒になるのでな」
「あ、そう」
アテーナーは、夏樹から視線を外さずぜっくんの襟首を掴んだ。
「……勇者よ、フルカスを倒したことは見事と褒めてやろう。我に立ち向かってくるというのなら受け入れもしよう。だが、今はその時ではない。不完全な力を使いこなせるようにしておけ」
そう言って、アテーナーはぜっくんごと消えた。
「言いたいことを勝手に言いやがって! お皿さんの仇を置いてけ! 逃げるんじゃねええええええええええええ! せめて弁償しやがれええええええええええええええええ!」