作品タイトル不明
34「絶望の神に絶望させられたんじゃね?」②
運命の出会いだと思った。
汚れを知らぬ真っ白なお皿は、まるで生まれた時から頭に乗っていたようなフィット感だった。
このお皿さえあれば、異世界にギャラクシー河童勇者の名を轟かせるには十分過ぎた。
――そう思っていた。
「いやぁああああああああああああああああああああああああああああ!」
だが、運命を感じたお皿は無情にも割れてしまった。
店主さんが新聞紙を巻いてくれたが、手で持って帰りたかったので袋を断ったのがわるかったのか。
「甘露甘露! よい悲鳴だ!」
絶望の神ぜっくんは、夏樹の絶望の叫びに愉悦を浮かべる。
「やぁああああああああああああああああああああああああああああああ!」
ぜっくんの声は夏樹に届かない。
夏樹の心を占めるのは悲しみ、苦しみ、後悔、そして怒りだった。
「いやぁあああああああああああああああああああああああああああああ!」
なぜ不用意に剣を振るったのだ。
なぜぜっくんビームなどというふざけた名前の攻撃を相手にしたのだ。
なぜ命に代えてもお皿を守らなかったのだ。
そんな後悔が夏樹の中に渦巻く。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
「あ、あの」
きっとお皿が無事ならば、今日から素敵な日々が始まったはずだ。
一緒にお風呂に入り、食事をし、一緒に眠り、共に異世界を蹂躙し、帰ってきたら手を繋いで学校に行くのだ。
しかし、そんな未来は訪れない。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
「ちょっと」
夏樹は自分自身のことが許せなかった。
自らの甘さが、大切な友を失うことになってしまったのだ。
だが、そのきっかけは作ったのは誰だ。
元凶は誰だ。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
すべて絶望の神ぜっくんのせいだ。
新たな神だかなんだか知らないが、そんなに絶望を望むのであればくれてやろう。
「――許さんっ!」
由良夏樹は、この日――ダークサイドに堕ちた。
■
夏樹はそっと割れた皿を手に取ると、アイテムボックスの中にしまった。
次の刹那、夏樹から強大な魔力が放たれた。
「――ぐぅううううううううううううっ!?」
魔力圧によって、ぜっくんの身体が殴られたように吹き飛ぶ。
だが、腐っても神を名乗るだけあり、体勢を立て直すことに成功する。
「いいぞ、いいぞ、由良夏樹! ――お前のその力でっ、私をっ、絶望させてくれっ!」
「――七割で行くよ」
魔剣を握った夏樹が、地を這う蛇のごとく疾走する。
その速さは、神であるぜっくんにとっても目にも留まらぬ速さだった。
「――常闇の剣よ、 哭(な) け」
闇を纏った魔剣が魔力を帯びた叫びを上げる。
反射的に背後に飛んだぜっくんだったが、腹部から肩にかけて下から斬られ、血を吹き出す。
ぜっくんの血が、夏樹の顔を赤く染めた。
「絶望の神も血が赤いんだな。面白い、身体中を斬り刻んで現代アートにしてやる」
「それはなかなか絶望的だっ!」
ぜっくんも負けじと虚空から剣を抜く。
神気を宿した神剣だった。
だが、夏樹と常闇の剣の敵ではない。
まるで熱した包丁でバターを切るような感覚で、ぜっくんが薙いだ神剣を常闇の剣が縦一閃に両断した。
「――素晴らしっ、いっ!」
肩から腿まで斬られたぜっくんが膝をつく。
傷ひとつ負っていないどころか、息さえ切らしていない夏樹の前で、まるで首を刎ねろと言わんばかりの体勢となった。
「さようなら、絶望の神。絶望しながら死ね」
ぜっくんの言葉もなにも聞く気はなく、夏樹は常闇の剣を振るった。
だが、遠くから放たれた槍によって魔剣が弾かれた。
「絶望の神殿っ! そなたは絶望に執着しすぎである! ここは私に任せていただこう!」
青い馬にまたがり、鎧を身につけた白髪と白髭を伸ばした老人が槍を持って夏樹に向かい突進してきた。