作品タイトル不明
32「買い出しじゃね?」
向島市には大きなスーパーが複数ある。
ショッピングモールなどの大型店ではないが、食品から衣類、薬局まで充実している。
「待っておったんじゃぞ、夏樹――って、なんでおどれらがおるんじゃ!?」
「うわっ、安倍東雲さんじゃないっすか。つまり京都御一行っすね!」
スーパーの入り口でカートを準備して待っていたのは、小梅と銀子だった。
ふたりは夏樹に気づいて手を振るが、安倍東雲と円、星熊童子、虎童子、熊童子が同行していることに目を剥く。
「いやいやいやいやいや、夏樹くん! ――熊さんがいるんすけど! リアル熊さんっすよ! 警察来ちゃいますって!」
「べあ!」
「隠形しているからへーきへーき!」
「マジですか!? 頼みますよ、スーパーで見られちゃったらSNSで拡散されちゃうんすからね!」
「しののんだから平気だって」
「……京都一の霊能力者である安倍東雲を夏樹くんが信頼しているのならいいんですが」
銀子は、東雲の学生時代の武勇伝を知っているので、やや警戒気味だ。
夏樹が京都に行く前にも少し顔を合わせているのだが、その時はきちんと話ができていなかったことが理由だろう。
「それよりも――なーんで星熊童子と虎童子はJKみたいな格好しとるんじゃ。おどれらじゃ年齢的に無理があるじゃろうて!」
「ふざけんな!」
「紀元前から生きているお前よりは若えよ!」
「ちょ、それは言ったらいかんやつじゃろう!」
小梅は、星熊童子と虎童子と睨み合う。
(小梅ちゃんは小梅ちゃんでスタイルが良い美人さんだから、JKには見えないかなぁ。銀子さんは……うん、論外!)
本人たちが聞いたら激怒しそうなことを夏樹は心の中で考えた。
(むしろ、年齢的にも外見的にも円ちゃんのほうが似合うんじゃね? と、言ったらまた大変なことになると思うので、なっちゃんは口にしないのです)
「とりあえず、他のお客さんの迷惑になるからスーパーの中に入ろうよ」
「そうじゃな」
「そうっすね」
夏樹たちはぞろぞろとスーパーの中に移動する。
カートはひとつでは足りないと思ったので、三つにした。
「それで、なっちゃん。何から買うの」
「まずは飲料水だね。異世界はマジで水が汚いんだよ。清流とかの話じゃなくて、人の住んでいるところがね」
「……異世界って工業とか発展しとらんのやろう? それなのに、水が汚いん?」
「汚い。なんというか、雑なのよ。汚水は垂れ流しだし。そりゃ、現代のようにはいかないんだけど、衛生面に気をつけて煮沸して飲むとかそういうことをしないの」
「……それは嫌やね」
「というわけで水は大量に買います。なんなら買い占めたいくらいだけど、そういうことはしちゃ駄目なので何店舗か回る予定です」
「お茶とかは駄目なん?」
「普通に飲むだけなら問題ないよ。でもほら、ご飯に使うにはね」
「せやね」
夏樹と円は、ミネラルウォーターを箱で買おうと店員さんに声をかけた。
店員さんは親切で、ストックがあるからと二十ケース購入させてくれた。
レジまで台車で運んでおいてくれると言うので、お礼を言ってお言葉に甘えることにした。
「えーと、次はお米だね。おかずはレトルトカレーとか缶詰を買っていけば良いか」
「それはええんやけど、なっちゃん」
「うん?」
「あれ、どうするん?」
円が指を差したのは酒コーナーだ。
品揃えがいいお酒を前にして、大人たちが睨み合っていた。
「とりあえずビールじゃろう!」
まず、小梅がビールを買うべきだと主張を始める。
「待ってくださいっす! せっかくゴッドの金でお酒が買えるんすから、普段飲めない高いウイスキーにしましょう! それにもしかしたら佐渡祐介くんが寒さで凍えているかもしれません! そう言う時こそ蒸留酒っす!」
「おどれはセントバーナードか!」
銀子はガラスケースの中にある高いウイスキーが欲しいと主張した。
「自分はワインがええなぁ。異世界で飲食できへんのはかまへんけど、少しだけ癒しに美味しいもんを飲みたいわ」
「かーっ、これだからボンボンは! 俺は日本酒一択だぜ!」
東雲はワインを持ち、星熊童子は日本酒の一升瓶を抱えている。
「あたいは芋焼酎だな! 麦もいいけど、最近は芋なんだよ。お湯割でくいっとな」
虎童子は焼酎がいいようだ。
会話には参加していない熊童子だが、彼女の視線は少し離れたはちみつコーナーに注がれている。
ブレない熊童子に少し安心した。
「ほんま大人は……」
「しょうがないねぇ」
ひと足先に帰った一登と都を連れてくればよかった、と夏樹は心底思った。