軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

間話「バレンタインデーでまもんまもんじゃね?」

――青森某所。

仕事を終えた夕方。

サマエルは汚れた衣服を洗濯機に放り込み、シャワーを浴び終えると、いつものビールではなく高そうなワインを用意していた。

「さまたん、さまたん! ちょっと聞いてまもんまもん!」

「……最近、こいつはマジでサマエル様って言わなくなったよなぁ。まあ、いいけどさぁ」

相変わらずスーツに長靴という効率の悪い格好で農作業をするマモンが上機嫌で帰宅する姿を一瞥すると、グラスにワインを注ぎちびちび飲み始める。

「まもん? いつもはとりあえずビールなまもんまもんのさまたんが、気取ってワインをまもんまもんですと?」

「……気取ってねえから、お前、はっ倒すぞ!」

「し、しかし、さまたんはビールから日本酒、もしくは芋焼酎に移行するのがまもんまもんな日課だったはず!」

「べ、別に日課じゃねーし! お前なぁ、まるで私が一升瓶抱えて飲んでいるみたいなこと言うなよぉ!」

「まもん? 抱えて飲んでいまもんまもん?」

「抱えているけどさ! 近所の方に聞かれたらどうするんだよ!」

「まもんまもん! ご近所さんは歩いて十分ほどの場所ではありまもんまもん。そうそう聞こえまもんよ。そもそも、井戸端会議でさまたんのお酒の量を相談したこともありまもんですから、今更かと」

「お前なぁ! 私の個人情報ぺらぺら喋んな!」

「まもんまもん。しかし、商店街の肉屋の店主殿がコスプレが趣味とか、和菓子屋の若旦那が二次元じゃないと駄目だとか、貴重な情報をまもんまもんするのは奥様方の」

「その情報貴重か!? 肉屋のおっさんと、和菓子屋の坊主の性癖なんて知りたくもねえよ!」

部下であり、幼馴染みである、マモンが普段どんなことを奥様方と話をしているのか気になる。

というよりも、強面のスーツ姿のおっさんが、買い物かごを持って井戸端会議をしている姿がなかなか想像できなかった。

「まあ、いいよ。それで、喜んでたようだけど、何かあったんだろ? 面倒だから早く話せよ」

「さすがさまたん。良い上司は部下の話をちゃんと聞くでまもんまもん!」

「……うぜぇ」

マモンが座布団の上に腰を下ろすと、サマエルがグラスを彼の前に置きワインを注いだ。

「いただきまもんまもん」

「で?」

「――亜子さんからチョコレートをもらってしまもんもんん! このマモン、紀元前から生きておりまもんまもんが、これほど嬉しいことはありまもん!」

「……チョコレートひとつで……寂しいやつだな」

「まもんっ、まもんっ、まもんっ!」

「ちっ、ちっ、ちっ、みたいにまもん言うな!」

七つの大罪の魔族として、殺伐としていた日々からは想像ができないほど、今のマモンは愉快になっている。

よくよく考えれば、元はこんな奴だった。

サマエルがサタンに敗北し、隠居してから、魔族の幹部として仕事する日々はさぞストレスだったのだろう。

サマエルがそうだったように、マモンもまた青森の大地と近所の暖かい人たちに救われたのだと思う。

「手作りなチョコレートいただきまもんまもん!」

「おおー! 亜子ちゃんもやるなぁ!」

「……正直、今日は関係を深めることができたと思いまもんまもんですが、亜子さんはこれからご両親のもとに一時帰宅をするそうでまもんまもん」

「そういえば、亜子ちゃんに嫌がらせしていた生徒が不慮の事故で入院して、今までの悪行が突然暴かれたことで退学やら転校になったらしいな」

「まもん!? なぜ、さまたんがそれを」

「いや、亜子ちゃんに聞いたけど」

「そ、そうでしたかもんまもん。マモンは聞いていないのですが」

「いや、聞いていないというか、お前が元凶じゃねえかよ!」

「なんのことでまもんなー」

「うぜぇえええええええええええええええええ!」

マモンのしたことは咎めるつもりはない。

むしろ、かつてのマモンなら全員死んでいたはずだ。丸くなったものだ。

「というか、不純異性交友は駄目だぞ!」

「――まもんまもん」

「ノンノン、みたいにまもん言うんじゃねえよ!」

「マモンと亜子さんは純愛だから問題ないでまもんまもん!」

「一応、未成年だからな。亜子ちゃんのおばあちゃんを悲しませることをするなよ」

「……まもん、亜子さんのおばあちゃんは早くひ孫の顔がみたいと催促してくるのでまもんまもん」

「しゅごい!?」

「亜子さんもまんざらではなかったので、今日いけるかと思ったのですが……まもんまもん」

しょんぼりしたマモンは、ワインを口に含んだ。

「ところで、まもんまもん。さまたんは、チョコレートを渡したりはしないでまもんまもん?」

「かずたんにか? もう朝に渡してきたぞ」

「まもん!?」

「あくまでも、友人としてだが、ささっと飛んでいって玄関から出てきたところを市販のだがちょっと良いチョコレートをな」

「……まもん。つまり待ち伏せまもんまもん」

「人聞き悪いこと言うな!」

「血とか体毛とか入れてまもんまもん?」

「んなことするか!」

――バレンタインデーも青森は平和だった。