作品タイトル不明
30「私、なっちゃん。後ろにいるんじゃね?」②
夏樹は、満面の笑顔を浮かべて金童子の背後に立っていた。
「こんにちは! 私、なっちゃん。今、殺したはずの鬼さんの背後にいるの!」
「あわわわわわわわわわわわわわわわわ」
確実に殺したと思っていた鬼が生きていただけでも驚きなのに、介護職員として働いているのもびっくりだ。
「……こーんーにーちーはー! 私、なっちゃんっ! ぶっ殺したはずの鬼さんの背後にいるんだけど、おかっしいなぁ!」
「ひえぇええええええええええええええ」
「怒ってないよ。怒ってないんだけど、向島市で就職して、天使と出会ってラブコメとか良い根性しているなぁって」
「ま、待ってくれ、少年! 誤解だ!」
「なーにーがー?」
買い出しに行こうとした途中で、東雲と円の霊力を感じ取ったので「向島市に来ているのかな?」と思い、寄り道してみたら、まさか金童子が生きていて家族と再会しているとは思わなかった。
「お、俺は人を殺していない!」
「あ、そ」
「だから、俺と少年に戦う理由はないんだ!」
「え? でも、喧嘩売ってきたのはそっちだから、ぶっ殺すまでが京都旅行ってゴッドも言ってたし。すっきりしないから、殺しておかないと」
「えぇ……最近の子、こわぁ。ええぇ、そんなノリで、俺、殺されちゃうのぉ? 茨木童子がいなくなってやったーって思った次の瞬間に殺されちゃうのぉ?」
「あの世で、茨木童子にしくよろー!」
虚空から魔剣を引き抜き振りかぶる。
「いやいやいやいや、待て待て待て待て!」
「冗談でやっているのかと思ったら、マジかよ!?」
「べあべあべあべあべあ!」
「あ、スターベア童子さん、タイガー童子さん、ベア童子さんこんにちは!」
「今まで長く生きてきたけど、そんな名前で呼ばれたこと初めてだぞ!」
「いや、そこじゃねえから、姉貴! 頼むよ、河童好き勇者、金童子を勘弁してやってくれ!」
「べあべあぁ!」
膝を震わせて涙を流す金童子と、魔剣を握って満面の笑みを浮かべる勇者夏樹の間に、星熊童子、虎童子、熊童子が立ち塞がった。
「……夏樹くん」
「……なっちゃん」
「あ、しののんと円ちゃんもちーす! ちょっと、待っててね。今、マネー童子をぶっ殺すから。多分、倒したら一万円くらいドロップするはずだから、そのお金でご飯でもいこうよ!」
「……さすがに、出てこへんと思うけどなぁ」
「RPGやないんやから」
「そっか……残念。じゃあ、さようなら」
夏樹は笑顔のまま魔剣を振り上げた。
「だから待てって言ってんだろ! 俺に免じて、許してやってくれ!」
「スターベア童子さんに免じてと言われても」
「じゃあ、あたいに免じて頼む! こんな雑魚でも弟なんだよ! 千手ダーリンの未来の妻として頼むよ!」
「うーん」
「べあべあべあ!」
「……今、思ったけど、ベア童子さんは熊さんの姿をしているけど、これ大丈夫?」
東雲と円に視線を向けると、ふたりは頷く。
「平気やで、隠形術を使っとるから、一般人にはまず見えへんよ」
「……熊童子は人の姿になるとスク水装備になってしまうんから、熊の姿で隠しておった方がええとおもったんよ」
「なんでスク水!? ていうか、スターベア童子さんとタイガー童子さんも、よく見たら少し前のJKみたいな格好しているし! まあ、いいや。スク水に免じて、マネー童子さんのことはいいよ」
夏樹が魔剣を虚空にしまうと、一同がほっとする。
金童子に至っては、その場に座り込んでしまった。
「ところで、どうしてみんなが向島市にいるの? あ、マネー童子さんに会いにきたとか?」
「金童子が生きとったんは、ボクらも知らんかったんよ。水無月家で、情報をもらったから会いにきたんよ」
夏樹の疑問に円が答えてくれるが、向島市に来た謎は不明のままだ。
「そうなの? じゃあなんで?」
再度、尋ねた夏樹に円は困った顔で告げた。
「なっちゃんがピンチになるって、すさすさ仮面が予告してきたんや。だから、助けになろうって暇な連中集めて飛んできたんやよ」
「――すさすさ仮面ってどちら様ですか!?」