作品タイトル不明
29「私、なっちゃん。後ろにいるんじゃね?」①
「金童子ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
「あ、星姉ちゃん、虎姉ちゃんと熊姉ちゃんも!?」
安倍東雲と虎童子、熊童子は、安倍円と虎童子と合流すると、死んだと思われていた末弟の金童子が生きており、働いているという介護施設の前にいた。
ちょうどよく施設から出てきたのは、車椅子を押す長身痩躯の青年を見つけ、すぐに弟だと理解した。
「……自分の知っとる金童子の姿やないんやけど」
「力も雑魚や」
姉弟の再会を邪魔しないように少し離れていた東雲と円だが、万が一の時は動けるように準備していた。
夏樹から話を聞く限りは、筋骨隆々の赤鬼だったようだが、ふたりの目には、病弱そうな優男にしか見えない。
おそらく人化しているのだろうが、妖怪や神や魔は自らの原型を変えるほどの変化はできない。格が高い神や魔ならさておき、いくら酒呑童子の息子でもあくまでも本性に似た人の姿にしかなれないのだ。
「あー、金童子は実はひょろがりなんだ。多分、お前らが知る姿や、由良夏樹に見せた姿は、盛った状態だったと思うぞ」
「……だっさ」
虎童子の暴露に、円が小さく本音をこぼした。
「ちょ、星姉ちゃん! 俺、仕事中なんだけど!」
「すみません、ちょっと、こいつとお話しさせてください。家族です!」
「痛い痛いっ、耳引っ張らないで! 取れちゃう!」
金童子の同僚に車椅子を託すと、星熊童子は弟の耳を掴んで引っ張ってくる。
一同は、介護施設の道路を挟んだ反対側にある駐車場で話をすることとなった。
「……な、なんで姉ちゃんたちが? うげっ、安倍東雲と安倍円もいるじゃないか! や、やっぱり茨木童子は死んだのか?」
「姉貴は死んだぞ」
金童子は、姉たちと東雲と円が一緒にいることから全てを察したようだ。
そして、大きく両手を上げた。
「ばんざーい! ばんざーい! ばんざーい!」
「……え? なんでこの鬼、万歳しとるん? しかも泣いとるし、普通にキモいんやけど」
金童子の言動に、円が引いていた。
「あの鬼よりも鬼みたいな茨木童子が死んだんだ! これで俺は自由だ! やっぱりあの子に喧嘩を売って京都に来るようにしかけたのは大成功だったな!」
「――まさかお前」
星熊童子たちが絶句した。
まさか、金童子が茨木童子に夏樹をぶつけるために行動していたなどと夢にも思わなかったのだ。
金童子はドヤ顔して語る。
「俺は、失恋の傷を癒すため傷心旅行中……居酒屋で知り合った妖怪から由良夏樹の存在を知ったんだ。そこで、俺はあの手に負えなくなった茨木童子にあの少年をぶつけようと企んだんだ」
「へー。まじかぁ」
「ああ。誤算だったのは、少年が強すぎたということだよ! 雑魚な俺でも酒呑童子の息子だ。挑発して帰ろうと思ったら、殺されかけました! 腕潰されて、あ、やばい、って思ったから、義体を脱いで全力ダッシュで逃げたんだよ! それでも、かなり疲弊していて、死にかけていたところを――俺は天使に救われた」
「ほーん。俺が茨木童子とガチバトルしてる時に、ラブコメっていたってことでおーけー?」
「それは悪いと思っているけど! ――あれ?」
金童子は首を傾げた。
最初、会話をしていた姉たちが静かになり、どこか聞いたことがあるような、思い出したくないような声と会話していた。
助けを求めるように姉たちと東雲兄弟に無言で訴えると、みんなは残念そうに首を横に振った。
金童子は、恐る恐る背後を振り返ると、
「やあ! なっちゃんだよ!」
かつて自分を恐怖のどん底に陥れた少年がキラキラした笑顔で立っていた。
「ひぇえええええええええええええええええええええええええええええ」