作品タイトル不明
28「助っ人が到着じゃね?」②
「先日は、突然の訪問を失礼しました。今回も急な訪問にも関わらず、お出迎えくださり感謝いたします」
安倍東雲(あべしののめ) は、水無月家の座敷で、正座して頭を下げて挨拶をしていた。
「顔をあげてください。安倍家の東雲殿と交流できることを大変嬉しく思います。どうぞ、普段のように気さくに」
「……おおきに」
水無月家当主、 水無月茅(みなづきかや) が柔らかな笑みを浮かべて、東雲を歓迎した。
そして、彼女の視線はゆっくり東雲の背後に向かう。
「そちらが?」
「はい。酒呑童子の娘、 星熊童子(ほしくまどうじ) と 熊童子(くまどうじ) です。悪さはせんと約束しとるので、ご心配なきよう」
星熊童子は、ブレザーにチェックのスカート、ルーズソックを履き、座布団の上であぐらをかいている。
熊童子は、熊の姿で綺麗に正座していた。
「一応、確認させてください。そちらの熊さんは鬼でいいんですよね? 熊の妖怪ではなく、鬼ですよね?」
「……自分も驚きましたが、この熊さんは鬼で間違いないです」
「べあべあ!」
「……べあべあ?」
手を挙げて、おそらく挨拶なのだろう。べあべあ、言う熊童子に、茅だけではなく、秘書の 八咫柊(やたひいらぎ) も驚いたように目を丸くした。
「可愛らしいですね」
「おうよ! ウチの熊童子は世界一だ! いや、宇宙一だぜ!」
「……星熊童子……君は黙ってるんって約束したよね?」
「す、すまん。つい、な」
東雲に嗜められて、星熊童子が謝罪する。
彼女は、向島市にくるにあたり、不必要に暴れない、無礼な態度を取らない、と約束させられている。
仮に、約束を破った場合「全力で七森千手くんと虎童子の関係を邪魔したるからね」と脅されていた。
逆に、約束さえ破らなければ、協力してくれるようなので、妹たち大好きな星熊童子はお行儀良くしていた。
「鬼で言いますと、こちらの不手際でこいつらの弟の 金童子(かねどうじ) が人を襲ったということ謝罪します。謝って済む問題ではないでしょうが、できるだけの保証をしたく」
「そのことなのですが」
「なにか問題でもありましたん?」
「由良夏樹君の証言もあったので、金童子の被害にあった方を探したのですが……パンツを脱がされて奪われた被害はあったのですが、殺された者はいませんでした」
「……つ、つまり?」
東雲は困惑気味に尋ねた。
茅は言い辛そうに、言葉を探すが、上手いこと言えないようではっきり告げた。
「おそらくですが、金童子はパンツ泥棒はしましたが、人殺しはしていないのでしょう」
「は?」
「夏樹くんに人を殺したと言ったのは、えー、虚勢だったのでは?」
「…………」
なんとも言えない沈黙が訪れた。
東雲が、星熊童子と熊童子に視線を向ける。
ふたりは、東雲の視線から逃げるようにそっぽを向いた。
「どういうことや?」
「……変だとは思っていたんだよ。昔から根性はないし、強い相手に立ち向かうような気概はなかったんだ。どちらかと言ったら、蝶々さんとお花さんとお話しすることを趣味にしている金童子が、なーんで由良夏樹に挑みに行ったのかもわからなかったんだよなぁ」
「べぁ」
「もしかして、鬼としての気概を取り戻したのかと思ったんだが、そっかぁ、違うのかぁ」「べぁべぁぁ」
「実は――」
茅は続けた。
「金童子と思われる鬼が……随分と弱々しい力しか持っていないのですが、先日見つかりました」
「……水無月殿?」
「介護職員として働いている以外、大人しくしているので様子見をしていましたが」
「ちょ、まった、金童子生きてるの!?」
「べあぁあああああああああああああ!?」
「おそらく。人間の女性と同棲しながら、その方の務める介護施設でアルバイトを始めています」
「金童子に何があったんだぁあああああああああああああああああああああ!?」
「べぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
星熊童子と熊童子は、末弟の現在に絶叫した。
「……夏樹くんと戦って生きていたって、すごいんやない?」
東雲は、破壊神のような夏樹と戦いながら、今も生きている金童子を素直にすごいと思った。