作品タイトル不明
27「助っ人が到着じゃね?」①
「……ここが向島市か。なんか、田舎じゃねえか」
向島市のとある駅で、ひとりの女性がうーん、と背伸びをしていた。
「なにふざけたこと言うてんの。空気が美味しくて、喧騒もない、良い街やないか」
女性に対し反論するのは、幼さを見せる少年だ。
少女のように顔が整っている美少年と、二十歳手前の美女が並ぶ姿は人目を引く。
「なーに媚び売ってんだよ、つーか、どこに媚びてんだよ。向島さんか?」
「黙れや、色ボケ鬼。誰がここまで連れてきてやったと思っとんねん。せっかく東雲兄貴が朱雀で送ってくれる言うたのに、電車乗りたいとかわがまま言いよって」
「あれは朱雀じゃねえよ! 鶏じゃねえか! 安倍晴明が使役していた朱雀はかなりやばかったけど、あれはただの鶏だからな!」
女性は、酒呑童子の娘がひとり、 虎童子(とらどうじ) 。
少年は、安倍晴明の子孫、 安倍円(あべまどか) だった。
「なんで兄貴も面倒な鬼っ子三姉妹を向島市に連れて行くなんてことを」
「お偉いさんが許可したんだからいいじゃねえか、小さい男だな」
「やかましいわ!」
円は、黒のワイドパンツを履き、オーバーサイズのシャツを着た軽装だ。
対し、虎童子はなぜかセーラー服姿だった。
しかも、安倍家長女の 安倍音叉(あべおんさ) が学生時代に着用していたお古に袖を通している。
円は、改めて虎童子の服装を見て、文句を言おうとしてやめた。
京都の自宅を出る前に散々、口喧嘩したのだ。
二十歳近い女性がセーラー服を着ている姿は、コスプレ感が否めない。だが、本人は気にすることなく、スカートを短くし、ルーズソックスを履いてドヤ顔している。
彼女にとって、最先端らしい。やはり円は突っ込まなかった。
安倍家長男である 安倍東雲(あべしののめ) と共にひと足先に向島入りしている酒呑童子が娘の 星熊童子(ほしくまどうじ) も虎童子と同様に、ブレザーにルーズソックス、ローファーを装備して兄を「うわぁ」と言わせていた。
だが、問題は 熊童子(くまどうじ) だ。
彼女は、普段は熊の姿で生活しているのだが、さすがにその姿で街にはいけない。
そこで人化してもらったのだが、なぜかスクール水着を装備していた。
そこで脱ぐ脱がないで押し問答があり、円が説得を諦めて「もうええわ」と自棄になるという一幕もあった。
「さてと、ダーリンのところへ行こうぜ」
「あかん」
「なんでだよ!」
「まずは、この地にいらっしゃる天照大神様にご挨拶やろう」
「ああ? 天照大神が怖くて鬼なんかやってられっか!」
「君が怖なくてもボクは怖いんよ。それに、君が適当な態度とったせいで、七森千手はんに迷惑かけるかもしれへんのやけど、そこはどうでもええんか?」
「なにしてんだ、馬鹿野郎! まずは天照大神様にご挨拶だろうが! 土産はちゃんと持ってきたか!?」
「……張り倒したいわぁ」
ころっと態度を変えた虎童子に、円のこめかみが引き攣る。
だが、我慢した。
今更である。
夏樹が茨木童子を倒してから、今日まで短い時間だが、自分の部屋を我が家だと言わんばかりに居座られた。
円は自分の領域を守るために、戦い、疲れ果てていた。
長年の鬼への恨みとか、茨木童子が死んだことへの余韻もなにもなかったのだ。
「まあ、ええよ。ボクもこんなん早くなっちゃんと再会できるなんて思っとらんかったからね」
「それにしても、安倍東雲にダーリンたちが困難に立ち向かうとか予告してきた、すさすさ仮面……一体何者なんだ?」
「それはボクもわからんよ。兄貴はなんか察したようで、ああ、うん、あー、そっかー、なんてようわからんこと言っとったんけどね」
「ま。なんにせよ、ダーリンに何かあるのなら、妻であるあたいが力を貸すのが必然ってことだな!」
「……自称妻のくせに図々しい奴やなぁ」
「自称じゃねえよ!」
そんなやりとりをしながら、安倍円と虎童子は水無月家に向かい歩くのだった。