作品タイトル不明
26「祐介くんの現状やばくね?」③
「ねえ、ゴッド」
「ぴぃっ」
ゴッドが夏樹に祐介やぜっくんの話をしていると、リリスの声が響いた。
感情のこもっていない声だ。
変な声を出したゴッドに釣られるように、夏樹たちが背筋を正す。
夏樹たちの背後にリリスがいるため、彼女がどのような顔をしているのかわからない。否、わかりたくない。
「祐介くんが異世界召喚されたってどういうことかしら?」
起伏のない平坦な声のはずが、やけに圧を感じる。
夏樹は絶対に振り返らないと誓った。
「いえ、それは、あのですね……祐介くんは勇者として召喚された過去が、いえ、未来があるので、時間はずれてしまいましたがゴッド的にも介入できなかったのです」
「それで?」
「それで、と言われましても」
「祐介くんとの再会を楽しみにしていたのに……水を差されるなんて」
「待ってください! 私が水を差したわけではないのですけど!」
「世界の管理者でしょう。同じことよ」
「ひどい!」
「それで、祐介くんはいつ帰ってくるの? その前に、ちゃんと帰ってくるんでしょうね?」
「それはもちろん。夏樹くんたちが異世界で無双して人間か魔族か、もしくは両方をぶっ倒してくれれば無事に帰ってきますとも」
リリスの手が背後から夏樹の肩に触れる。
「ひえっ」
リリスの細く白い手が、夏樹には威嚇する蛇に見えた。
「夏樹くん、気をつけて異世界に行ってきてね。祐介くんを無事に連れてきてくれたら、お礼するからね」
「は、はひ。もちろん、です。勇者ですから! 困っている人がいれば異世界でも宇宙でもどこでもいきますとも!」
「ふふ。良い子ね。夏樹くんのような子なら、小梅のことを任せられるわ」
「ありがとうございます!」
「じゃあ、祐介くんのことよろしくね」
「はい!」
夏樹がほぼ反射で返事をすると、リリスから圧がなくなり、ゴッドが心底ほっとした雰囲気を出す。
夏樹の肩に触れていた手がゆっくりと離れていく。
(ふえぇぇぇん、怖いよぉ! リリスさん怖いよぉ!)
気づけば涙がちょっと出そうになっていた。
「……夏樹くんのおかげで窮地を脱しましたね」
「ゴッド、貸しですからね」
「……わかっています」
「ならいいんですけど」
夏樹はそう言うと、立ち上がった。
「んじゃ、支度してきます」
「え?」
「支度ってなぜ?」
一登と都がわけがわからないという顔をするので、夏樹はやれやれと肩をすくめた。
「異世界に行くならちゃんと支度をしないと! 俺は破壊を得意とする勇者だけど、準備をちゃんとする勇者でもあるのさ! いや、真面目に、向こうの水って濁ってるよ。衛生状況めちゃくちゃ悪いからね」
「うわぁ」
「……それはちょっと」
「幸いアイテムボックスがあるから、持っているお金で買えるだけの飲料水と食料を買って詰め込んでおかないと」
「お待ちなさい、夏樹くん」
「ゴッド?」
ゴッドは夏樹を呼び止めると、茶封筒をテーブルにそっと置いた。
「なにこれ?」
「さすがに、私から異世界派遣をお願いしておいて、支度にあなたのお金を使わせるわけにはいきません」
「――っ、まさか」
「領収書もらってきてくださいね」
「ありがとう、ゴッド! 俺たち、頑張るね!」
封筒を受け取り、深々と頭を下げた夏樹に、一登と都は「はて?」と首を傾げた。
「……まさかとは思うけど」
「……私たちも行くとか……そんなわけないですよね」
ふたりのつぶやきはもちろん夏樹の耳に届いた。
しかし、夏樹は是とも否とも言わず、にたり、と笑うだけだった。