作品タイトル不明
間話「さまたんの決断じゃね?」
――青森某所
「おい、マモン」
「まもん?」
仕事を終えたサマエルは、風呂上がりのビールを飲み干すと、丸テーブルで動画編集作業をするマモンに声をかけた。
「数件先の高橋のおじいちゃんとおばあちゃんが引退するってさ」
「まもん!?」
「驚くのは無理ないよな。私も、仕事終わりに聞いてさ。高橋のおじいちゃんとおばあちゃんは私にとって師匠のような存在だ。まあ、そんなこと言ったらこの辺の農家さんはみんな師匠なんだけどさ」
「まもんまもん」
話題になった高橋のおじいちゃんとおばあちゃんは、数件先の土地で米作りをしている老夫婦だ。
そろって七十代であるが、元気で仲のよい、サマエルにとってもマモンにとっても理想の夫婦だった。
サマエルが移住してきた時にも優しく朗らかで、米作りを教えてもらったり、野菜の育て方を教えてもらった師匠と呼べる存在である。
気さくな方で、よく食事に呼んでもらったし、米を分けてもらっていた。
「まもんまもまもん?」
「引退理由は……最近、調子が悪いようなんだよ。前から腰が痛いとか、節々が痛いとか言っていたんだけど、そういうのじゃなくて……体力がなくなって、風邪をひきやすくなったとかなんだよ」
「まもんまもん」
「まあ老いって言ったらそれまでだよな。私ら魔族なんかは、古い魔族ほど強いって感じなんだが……人間の寿命はな、どうしても短い。だが、短いからこそ、私たちのように適当に生きないんだよな」
「まもんまもん」
「だよな、眩しいよな」
サマエルの魔界にある財産の中には、寿命を延ばす秘薬や、若返りの秘薬などもある。
よくしてくれた隣人に長生きしてほしいが、それらを使うことは違うのだと理解している。
していながら、なんとかしてあげられないかと思ってしまう。
「それで、だ」
「まもん?」
「高橋のおじいちゃんとおばあちゃんから土地を譲りたいって話をされたんだよ」
「まもん!?」
「なんでも、お子さんたちは離れて住んでいるし、農業には興味がなくてな。土地を売ろうとしたらしいんだが、足元見られて二束三文……ってほどじゃなくても、安いみたいでな。それなら、私たちにって」
「まもんまもん!」
「怒るなよ。お子さんだって、選択肢があるんだからさ。まあ、それで土地を譲ってもらう件を受けようと思うんだよ」
「まもんまもん」
「わかってるって。高橋のおじいちゃんとおばあちゃんは金はいらないなんて言ってくれたけど、そうはいかないからな。これからの老後に問題ないくらいは支払おうと思ってる」
「まもんまもん!」
「賛成してくれて良かったよ」
マモンも高橋のおじいちゃんとおばあちゃんに世話になっているので、サマエルに賛成してくれた。
サマエルは細々と林檎農家をやっていければいいと思っていたが、最近は畑にも力をいれている。
収入も少し増えていたし、貯蓄もある。だが、土地を買うとなると足りない。
「そこでだ、あんまりこういうことはしたくないんだが、私の魔界にある財宝を少し換金して支払おうかなって思うんだが」
「まもんまもん!」
「いや、埋蔵金は駄目だって。ああいうのは人間が見つけるからこそ、意味と浪漫があるんだろ! そりゃ、一部知ってるけどさ!」
「まもんまもん!」
「なーにが、やれやれ人間界に影響出ないものにしてくださいよ、だ。んなことお前に言われなくてもわかってるから!」
サマエルは長く生きているだけあり、金銀財宝を持っている。
ただし、物が物のため、人間界に影響を与えてしまう物も多い。
「ま、適当に金とか、あとは人間界で持っている土地に歴史的価値のあるなんやかんやが眠ってるから、それらを知り合いに発見させてちょっと小金でも稼ぐわ。そうそう、土地が増えるってことは人でも足りなくなるからな。やんちゃな少年少女を正式に社員として雇っても足りないから、求人を」
「――まもん!」
「国際結婚でフランスから移住してきたオーレルくんと雅美さんの立場は? って、わかってるって! ふたりも望むなら正式に雇って、いずれは土地を分譲とか考えてるから安心しろって!」
「……まもんまもん」
「胸を撫で下ろさなくていいからさ、とりあえずパソコン片付けて飯にしようぜ」
「まもん!」
マモンが返事をすると、テキパキと片付け出す。
サマエルは、炊き立ての米を確認すると、ホットプレートを準備した。
「っしゃ! 今夜は高橋のおじいちゃんが仕留めた猪で焼肉だ!」
「まもぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!」