作品タイトル不明
20「かっこいいだけで名付けると失敗じゃね?」
夏樹の十八番とも言える股間蹴りを喰らったガープは、白目を剥き崩れ落ちた。
股間を押さえ、地面に頭を擦り付けて悶絶する姿を見れば、どれだけの激痛を味わっているのか理解できてしまう。
「雷神トールさんは逆に俺の足を折るほどの股間だったのに……情けない魔族だ」
夏樹はいい汗かいたとばかりに額を袖で拭うと、今まで股間を蹴り上げた面々を思い浮かべる。
その中でも特記すべきなのは、北欧神話の雷神トールだった。
彼は夏樹の一撃を食いながら、平然としたどころか、足を股間で折ってしまうという離れ技をやってみせた。
さすが雷神トール。股間の鍛え方から他の神や魔族と一線を画する。
「うわぁ、夏樹くんひどい……なんか俺まで痛くなってきたかも」
「……さすがにこれは……というか救急車呼んだほうがいいんじゃないんでしょうか?」
一登も都も、敵として現れたガープに同情的だ。
「……由良夏樹よ、しばし待て」
「うん」
アマイモンが待ったをかける。
彼は言葉なく悶絶するガープに寄り添った。
「……ガープよ、痛いのか? そうか、痛いのか? 我にはわからぬが、痛いなら仕方がない。さすればいいのか? なに? 衝撃を与えるな、と? 承知した。では、しばし放置しよう」
主人としての気遣いを見せた後、アマイモンは立ち上がり無表情だがどこか困ったような雰囲気を発しながら、夏樹に言った。
「ガープはこの通りだ。戦うつもりはなく、引こうと思っていたのだが、これでは動けぬ。しばし時間を頂戴する」
「あ、はい」
「ところで、疑問なのだが」
「うん?」
無表情のアマイモンは、こてん、と首を傾げた。
「――なぜボールペンと思い切り叫んだのだろうか?」
「ほえ?」
夏樹はアマイモンの問いかけに、心底わからないと言った顔をして、彼と同じように首を傾げる。
「俺、ボールペンなんて言った?」
「あの……夏樹くん……クーゲルシュライバーはドイツ語でボールペンです」
「え? 嘘?」
都が恐る恐る夏樹に指摘をする。
震える身体で夏樹は一登を見た。
一登はそっと目を伏せてしまう。
続けて、夏樹はアマイモンを見た。
彼は都に同意するように頷くだけ。
「いやぁああああああああああああああああああああああ! はずかしぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
「というか、なんでクーゲルシュライバーなんて言い出したのさ!?」
「授業中にスマホでかっこいい言葉探していて見つけたんだよぉ!」
「かっこいい言葉を探す意味はなに!?」
「――勇者っぽい技名がほしかったんです」
「夏樹くん……散々、キックをパンチとか言ったり、河童勇者名乗ったり、ギャラクシーになったり、まもんまもん入れたり、湖の名前入れたりやりたい放題だったのに、今更かっこいいとかないでしょう! むしろ、その味を深めるべきだったんじゃないかなって俺は思うんだけど!」
「一登くんのおっしゃる通りです。ちょっとカッコつけようとしてしまってごめんなさい」
顔を真っ赤にする夏樹に、一登からツッコミが嵐のように入る。
隣で都も頷いている。
「……気にすることはない、由良夏樹よ。若人は失敗をしながら成長していくのだ。今日の失敗が明日の糧になればそれでいい。恥じることはない」
「やめて! ちゃんと慰められたほうが心にくる! きちゃうの!」
アマイモンからもフォローが入ってしまい居た堪れなくなってしまう。
穴があったら入りたい。
「きょ、今日はこの辺で勘弁してあげるんだからね! 今度は首を洗って待っていればいいんだからっ! べ、別にあんたのためにまた戦ってあげようなんて思っていないんだからね!」
意味不明な捨て台詞を残して夏樹は、一登と都を担いで去っていった。
「――相も変わらず面白い物だな人間は」
アマイモンは、無表情ではあったが少しだけ唇を緩めた。
すると、悶絶していたガープがゆっくり立ち上がった。
そして、なぜか、内股となり頬を染める。
「アマイモン様……このガープ、今日よりがぷ子としてお仕えしたく思います」
「……ふむ。今後も我に使えるがいい、がぷ子よ」
「――ありがたき幸せ」
「では、行くとしよう。由良夏樹とは他に話がしたかったのだが、できなかった。これも運命であろう」
アマイモンがそういうと、彼とがぷ子はその場から消えるのだった。