作品タイトル不明
18「不穏な雰囲気じゃね?」②
「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアプさんですか? 魔力を感じるけど、そんな魔族いたっけかな?」
夏樹が魔族の向き合う形に立つことで、背後に庇った一登と都が圧迫感から解放された。
ふたりとも呼吸も止まっていたようで、今は大きく息を吸っている。
「うーん。知らないなぁ」
「いや、違う。勢いで叫んじゃっただけで、ガープ。ガープだよ。オーケー?」
「おけおけ!」
ガープと名乗った魔族は、黒い軍服を身につけた三十ほどの男だった。
爪のついた翼を広げ、二本の角を伸ばした黒髪を伸ばしている。
夏樹は顔に出さなかったが、規格外の魔力を持つことに驚いていた。
(……サタンさんほどじゃないけど、小梅ちゃんより魔力量が大きいとかやばくね? それよりも、茨木童子と苦戦したあとに角が生えている魔族とか……めっちゃへし折りてえ)
死にかけるほど強い鬼だった茨木童子を思い出す、ガープの主張する角に夏樹はイラッとしてしまう。
だが、夏樹ももう中学三年生だ。
いきなり近づいて角をへし折るなんて無礼なことはできない。
「で、どこの中学校のガープさんですか?」
「魔界第七中学校卒業生のガープさんだ!」
「……あ、はい」
まさか本当に中学校に通っていたとは思わず、夏樹はびっくりする。
一度、魔界に行ってみたくなった。
「それで、以前は中学生で現在は無職のガープさんが何をしに来たんですかー?」
「無職じゃねえし! 一応、アマイモン様の忠実な部下としての仕事がある!」
「アマイモン? なんだよ、その甘いもんとかいうマモンマモンみたいな名前の魔族は?」
「そうやって、お前ら人間がアマイモン様のことを馬鹿にし、挙げ句の果てにはマモンごときが調子にのる!」
やはり魔族だけあってマモンを知っているようだ。
「気をつけてください、夏樹くん! アマイモンは八人の下位王子と称される有力な魔族です! ガープもまた軍団を率いる魔族です!」
「……俺、よくわからないけどネットで有名なフリー百科事典に載ってる?」
「載っています!」
「――ガープ! お前を名のある魔族だと認めようじゃないか。だけど、俺は魔族はサタンさんとまもんまもん、さまたん、リヴァ子さんでお腹がいっぱいだ。お帰りはあちらでーす」
ノリで帰ってもらおうとする夏樹であったが、ガープはノってはくれなかった。
実にノリの悪い魔族である。
サタンほどの実力者なら、一度帰ってからツッコミを入れながらまた来るくらいはやってのけるというのに。
「おふざけはやめだ。それと、そこの小娘ぇ! アマイモン様と俺を呼び捨てにするんじゃねえ!」
主人を呼ぶ捨てにされたことがよほど気に入らなかったのだろう。
ガープが都に腕を伸ばす。
「――ひ」
強い魔力と殺意を浴びた都が短い悲鳴を出し、一登が彼女を庇うように手を広げた。
だが、ガープの腕はふたりに届くことはない。
「……俺の大切な友達に、なにしようとしてんだよ?」
「てめぇ」
伸ばされた右腕は、夏樹が虚空から引き抜いた魔剣――常闇の剣によって、肘の下から切り落とされていた。
「……殺してやる、このクソガキ! 七つの大罪だけが魔族だと思うなよ!」
「上等だ。縦、横、斜めに切り裂いて、上司のアマイマモンとやらに送りつけてやるよ!」
「マモンまぜんなぁあああああああああああああああああああああ!」
魔剣を構える夏樹と、魔力の剣を生み出したガープが肉薄した。