作品タイトル不明
間話「安倍さんちの食卓じゃね?」
――京都。
食卓の席でトーストを齧っている安倍円は、テーブルの対面に座る星熊童子、虎童子、熊童子に頬を引き攣らせていた。
「……なんで家に帰らへんの?」
色違いのジャージに身を包む、鬼たちに、若干の苛立ちを込めて円は問う。
「家がねえんだからしょうがねえだろ!」
「世話になる代わりに飯の支度してやってるだろ!」
「くまぁ!」
「……熊崎のおかんがおるから家事してくれんでもええから! そうやなくて、なんで僕の家におるんかって聞いとんねん!」
星熊童子は、ベーコンエッグと山盛りの白米、納豆、味噌汁を美味しそうに食べていた。
虎童子は、野菜のサラダを中心に、トーストとコーンスープを飲んでいる。
熊童子は、ビスケットに蜂蜜を垂らして美味しそうに頬張っていた。
「せめて食べるもんを統一するとかせんの!?」
「いや、食いたいもん食っていいじゃねえかよ」
「食材なら買っておくから、小さい男だなぁ」
「くまっ、くまくま!」
「熊童子に至っては何を喋ってるんかわからんのやけどね!」
頭痛を覚えた円が、コーヒーを口にする。
「……なんでこんなにコーヒーが美味いんかな」
「はっ! ウチの熊童子に豆を挽かせたら右に出る者はいねえよ! 本人は苦いのが嫌いだからコーヒーは飲まねえけどな!」
「……なんつー宝の持ち腐れや。あ、ええよ、ええよ。無理して飲まんでええから、せかやらそんな悲しそうな顔せんといてなんか罪悪感湧くわ!」
星熊童子がなぜか胸を張る。
そんな彼女のジャージの右胸には「ほしくま」と刺繍されていた。
ちなみに、虎童子は「とら」、熊童子は「くま」と刺繍されている。
「……まあ、ええ。食事はええよ。僕も細かいことはいちいち言いたくないんから。でもな! なんでなっちゃんたちが帰ってから、よりによって僕の家に居座っとんねん!」
「そりゃあ、一番生活感がないから居心地がいいんだよ」
星熊童子の言葉に、虎童子が続けた。
「きららの部屋はなんが女の子してていづらいんだよなぁ。音叉はなんで無駄にあんな筋トレマシーン置いてあるのって感じ。東雲は、ほら、あたいらだって年頃の女だし?」
「……そういうことを言っとるんやない。酒呑童子のところへ行けばええやろ! 同じマンションに住んどるんやし!」
「ぜってー、嫌だ! 酒の匂いと加齢臭が充満してそう!」
「鬼は嫌いやけど、酒呑童子は泣いてええと思う。というか、君らも十分年寄りやろ。酒呑童子とあまり変わらんやから」
「馬鹿野郎! こんな素敵な女性に向かって年寄りとか!」
「はっ倒すぞ! あたいから加齢臭がするわけねえだろ!」
「くまくまくまー!」
昨日、夏樹たちを見送ってから、自然に帰宅した円についてきた鬼姉妹たち。
円が惚けた一瞬の隙にあっという間に部屋を占領されてしまった。
「お前は文句を言うけどなぁ。そもそもお前の幼馴染みの由良夏樹が俺らの家をぶっ壊したんだからな! 保存しておいた梅酒の瓶が全部割れてて泣いたぞ!」
「あたいは家庭菜園をぶっ壊された!」
「くまくまぁ!」
「熊童子の大切にしていた秘蔵のはちみつも台無しになったんだぞ!」
「……なっちゃんは僕の親友やけど、それだけの理由で僕の家に居座るのってどうなん? 一番、茨木童子に苦しめられとったの僕やで!」
幼い頃に茨木童子に襲われ、酒呑童子を恨むように呪われていた。
精神面で不安定だったこともあり、夏樹と再会した時は気づかなかったほどだ。
その恨みは、茨木童子が死んだ後でも変わらない。
「んなこといったら、こっちだって姉貴と弟ぶっ殺されてるからな! だけど、俺たちはんなことでお前を咎めねえ! だからお前も姉貴のことで俺らを咎めんな!」
「ず、図々しい奴らや」
「というか、姉貴に苦しめられたのはこっちだぞ! お前なんか数年だろ! こっちは一千年以上だからな!」
円は大きくため息をついた。
別に茨木童子の件を星熊童子にどうこう言うつもりはない。
それでも、勝手に居座っている三人に、文句くらい言いたいのだ。
「さてと、そろそろ用事があるからいくぜ。ごちそうさん」
「用事ってなんや?」
不思議そうに尋ねる円に、三姉妹は笑った。
「俺は、親父と一緒に姉貴の墓の準備だ。それと、金童子も弔ってやらねえとな」
星熊童子は、酒呑童子と約束があるらしい。
「あたいはきららとショッピングだ。旦那様の元に行くのに着の身着のままだと申し訳ないだろ!」
「虎童子ときらら姉ちゃんはなんでそんな仲ようなってんねん!」
「くまくまくまー!」
「うん?」
「熊童子は、音叉と稽古だそうだ! いつぞやのリベンジを果たすと音叉から誘われたらしい」
「くまくまくまー、にそんな長い意味あったん? んで、やっぱり音叉ねえちゃんも仲ようんなっとるし!」
「あ、ついでに言っておくと安倍東雲は、強硬派の腐敗を掴んでいるからそれを元に潰してくるみたいだぜ」
「なんで兄貴の予定を星熊童子が知っとるんや!?」
――安倍一家と鬼たちは割と仲良くやっていた。