作品タイトル不明
10「さすがにぱおーんはなくね?」②
象さんと夏樹の追いかけっこは、約五分続いた。
河川敷を全力疾走しながら「なんで俺が逃げてるんだよぉ!」と気づいた夏樹が魔剣を引き抜き応戦しようとした。
「今日のネットは祭りだ! 象さんの亡骸が向島市の河川敷に! 第一発見者の少年は語る――で、大バズりしてやる!」
血走った目をして、混乱しているのかしていないのかわからない言動をした夏樹が象さんに挑もうとすると、象さんは夏樹の前で静止すると、コミカルな音と煙を立てた。
煙の中から現れたのは、
「よう! 俺っちはガネーシャでい! ガネたんって、呼んでくれい!」
象の頭を持つ――ガネーシャだった。
「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!」
「すまんすまん、ついイタズラしたくなっちまったぜい。驚かせちゃってごめんよう」
オレンジ色のサルエルパンツとサンダルを履き、上半身は裸だ。
お腹が弛んだ恰幅の良い姿の上に、金の冠を身につけた象の頭が乗っかっている。
腕は四本あり、逞しく筋肉質だ。
象の牙は片方が折れているのが特徴として印象に残る。
そんな、ガネーシャといえば、夏樹でも知っている名高い商業の神だ。
「………………」
「どうしたんでい?」
「すみません、インドの方はちょっとご遠慮していただきたいといいますかなんといいますか」
「おいおいおいおいおいおいおいおい!」
「おかえりはあちらでーす。あざーっしたー!」
夏樹は聖剣をしまうと、深々と腰を折ってガネーシャに帰っていただこうとする。
しかし、ガネーシャは帰ってはくれなかった。
「インド神話を差別しようってか!」
「インド神話の住人はみんな世界を滅ぼせるかららめぇ!」
「みんなじゃねえってば! 一部がやべえだけで、俺っちは可愛い象さんでい!」
「普通の可愛い象さんは首刎ねられたからって、象さんの首を装備できないからぁ!」
「俺っちだってしたくてしたわけじゃねえからよう! 文句ならパパに言ってくれよぉ!」
「創造と破壊を司るシヴァ神に文句なんて言えるわけがないでしょうに!」
「あれあれ? なっちゃんも破壊を司る勇者って聞いたんだがなぁ」
「インドの神様にとんでもねえ誤解されているんですけど! この、善良を絵に描いたような優しい勇者を破壊を司るなんてなっちゃんびっくりだよ! びっくりして、ガネたんごと河川敷を斬り刻みそうだよ!」
「ちょ、禍々しい剣をぬくなってば! 言動が破壊を司ってるじゃん! こえーよ! パパよりもこえーよ!」
夏樹はとりあえずガネーシャに帰っていただこうと力押しするが、ガネーシャも簡単に帰る気がないようで二本の腕と四本の腕が掴み合い、力比べを始めた。
魔力で身体強化をする夏樹に対し、ガネーシャも負けていない。
「なんだよぉ、遊んでくれよぉ!」
「遊ぶのはいいけど、今度インドに行くからその時ね! 今日は帰ってください! この流れだと、シヴァ神が来ちゃうぅ! インド神話はマジでやべーんだって! 俺のせいで世界が滅びるのは嫌ぁ!」
「パパだってそんな破壊の限りを尽くさないってば! 仮に破壊したとしても、ちゃんと創造もしてくれるから平気だってばよ!」
「それが駄目だって言ってんだろ!」
ぐぬぬぬぬぬ、と河川敷で力比べをしていると、
「なにやってんだ、由良? お前な、京都であれだけ暴れた後に、今度は象さんとぱおーんかよ。ま、頑張れな」
スラックスとセーター、サングラスという出たちの千手が呆れた顔をして夏樹の肩を叩いて去って行こうとする。
「ちょ、待った! 千手さん! なんでこの状況スルーできるかな!?」
「――――――千手? いや、人違いじゃないですか? 俺は万手っていいます。んじゃ」
「おい、こら! 絶対関わりたくねえって顔してるのバレバレだから! もっと隠してよ! ちょ、ま、本当に去っていくの? 見捨てるの!?」
「うるせえ! 俺は主にお土産を渡してご挨拶すると言う崇高な使命があるんだよ! インド神話に出てきそうな象さんと関わりたくねえんだって!」
「彼はガネーシャさんって言って、インドで有名な神様です!」
「知ってるよ!」
「あ、ガネたん。彼は七森千手さん。俺の親友で、インド神話大好きな人です!」
「おい、ふざけんな由良ぁ! 巻き込むんじゃねえ!」
「俺っちはガネーシャ! ガネたんって呼んでくれい! 千ちゃん!」
「認識されちまったじゃねえか、絶対これ今日もイベントだろ! 俺は京都イベントで疲れてんだよ!」
「俺だってそうだよ!」
「ちくしょう、なんで俺は河川敷をふらふら歩いちまったんだ!」
ガネーシャと力比べをするのをやめ、夏樹は千手の背中に乗って小泣き爺のごとくこれでもかと体重をかけるのであった。
■
――その頃、祐介くんは。
「ないないないないない、嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘!?」
「どうしましたか、勇者様?」
「ほんげぇえええええええええええええええええええええええええ!」