軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

間話「向島エージェントじゃね?」⑧(終)

口周りにビールの泡をつけた銀子は、ご機嫌だった。

「いやぁ、まさか異世界に召喚されてしまうとは思わなかったっすけど、無事に帰って来れて良かったっすよねぇ。まあ、普通に考えて七つの大罪のマモンさんと、日本神話のやんちゃもの素盞嗚尊さんが揃っているんだから魔王なんかに負けるはずがねえって話っすけど……まーさか異世界ってあんなに耐久性が低いとは思わなかったっす」

六本目の缶ビールを開けて、グラスに注ぐ。

ごっくごくと喉を鳴らし、グラスの半分を飲んだ銀子は続けた。

「さすがのプリティ銀子ちゃんも、ここ二週間ちょいでいろいろありすぎて感覚がバグっていたことは認めましょう。でもね、天照大神が戦闘用に作った擬似空間で夏樹くんがあれだけ暴れて平気だったんっすから、まもんまもんとすさすさが暴れたからって壊れんなよ! ってね! げふっ!」

文句と共にビールを飲み干し、げっぷをする。

少々、お下品だった。

「……まもんっ。俺は強欲な魔族だが、頼まれたら嫌とは言えない魔族でもある。魔王を倒して欲しいと願われたら、倒すのが紳士な魔族だ。サタンをぶっ殺す予行練習にしようと思ったが、さすがにあんな雑魚とは思わなかったでまもんまもん」

「その喋り方なんとかならねえのかよ。異世界のお姫様も、まもんまもんとか言い出した時には、あーこの世界終わったーってすさすさ思ったよ、まじで!」

異世界にとって不幸だったのが、魔王を倒すために呼んだのがひとりふたりではなく、宇宙船に乗った向島市の愉快な住人だったということだ。

こちらの世界の魔王サタンであれば、話は違ったのかもしれないが、異世界の魔王は――正直、銀子と征四郎が命を代償にすればなんとか殺せる程度だった。

命をかけるとはいえ、人間の範疇でどうにかなる魔王に、七つの大罪の魔族と、竜殺しの英雄は相手が悪かったとしか言いようがない。

しかも、素盞嗚尊が「どっちが敵を多く殺せるか勝負だ」と煽り、まもんが「まもんまもん!」と応じてしまったせいで、酷かった。

銀子と征四郎は人間を相手にしていた。

魔族に通じるものや、素盞嗚尊たちを利用しようとするもの、魔王亡き後に覇権を握ろうと企む者を、とりあえず皆殺しにした。

なぜか「弱い」と思われた銀子と征四郎が人間に狙われたが、相手にならなかったのだ。

義政少年が攫われるという一幕があったが、数時間で「ふう、やれやれですね」と言いながら無事に帰還したのには驚いた。

ジャックは上空から避難勧告を続け、人道支援に徹した。

そんなこんなで数日。

魔王と戦い、まもんと素盞嗚尊の全力を受け、何もできずに消滅した。

――そこまではよかった。

魔族と神の攻撃は世界を揺らし、亀裂を入れた。

このままでは世界が滅ぶ、と言ったところで、

「なにしてんだ、くぉらぁああああああああああああああああああ!」

と、ゴッドが慌てて飛んできたことでことなきを得て、銀子たちも無事に向島に帰ってくることになった。

おかげでこうしてひとつの世界が救われ、楽しい宴会だ。

「ふっ、すさすさだかなんだか知らないが、俺のまもんまもんはネットで大バズりだ! さすがさまたん様! さすさま! まもんまもん! 名付けの親として誇らしいでまもんまもん!」

「はっ! なーにがまもんまもんだ! 見てろいっ、俺だって動画配信して人気者になってやるぜ!」

「まもんまもん! では勝負だ!」

「いいぜぇ! なっちゃんの親友であることをネットの海にも知らしめてやるぜ!」

酔っ払ったマモンと素盞嗚尊がくだらない勝負をしようとしているが、止める者はいない。

――ちなみに、神界の風景をバックに語り引きしている姿を奥さんに見つかった素盞嗚尊は、夕食の一杯が発泡酒から麦茶になった。

「ところで、義政。攫われていた数時間、なにがあった? 大丈夫だったか?」

「ふっ。征四郎おじさん。世の中には知らなくていい事もあるんですよ」

「……そうかなぁ」

「いつか、征四郎おじさんたちに語る日がくるでしょう。その時まで、待っていてください」

「……お酒飲んでないよね? そのオレンジジュースはスクリュードライバーじゃないよね?」

甥っ子の言動に、征四郎さんは少しだけ心配になった。