作品タイトル不明
71「勇者舐めてんじゃね?」①
「円っ!?」
Zの字を描くように、夏樹が奮った聖剣は首を刎ね、肩から袈裟斬りし、腹を真っ二つにした。
――ただし、円の身体には一切傷をつけずに。
「な、ぜ」
地面に落ちた首が心底不思議そうな顔をしていた。
腕の力が抜けて倒れそうになる円を夏樹は抱き抱え、東雲の隣に跳ぶ。
そして中指を立てた。
「勇者舐めんな! 斬りたいもんくらい、限定して斬れなくて勇者名乗れるわけねえだろ!」
少し離れたところで「ごめんなさい、僕にはできません」と祐介の謝罪が聞こえたが、気にしないことにした。
「ていうか! 話聞いてたけど、きもい! あと、重い! なんかどろどろして嫌! お前みたいな重い女に襲われた幼少期の可愛いなっちゃんと円ちゃんに土下座して謝って! そして死んで!」
「――まさか、お前……あの時の完全なる血統? なんで生きてるの?」
茨木童子さえ夏樹が現在生きている理由を知らないようだ。
しかし、異世界帰りの勇者は慌てない。
東雲に円を渡すと、静かに手を合わせた。
「すべて宇宙河童大神様のおかげどす」
「……ふざけたことを」
「クソ真面目だよ! ばーか! ばーか! ぶーす!」
小学生でも言わないような悪口を叫びながらも、夏樹は茨木童子から視線を逸らさない。警戒を解かなかった。
着物が赤くなるほど出血をしながら立ったままの茨木童子の胴体が動く。
転がる首をひょいと持ち上げてなんでもないように首に戻した。
同時に、夏樹の一撃で皮一枚で繋がっていた腕も、臓物をこぼしていた腹も再生していく。
「きんもー! 素直に死んでれば可愛げがあったのに」
「……お前の存在はよくわからないけど、ひとつだけ。もう一度死ぬまで血を吸ってやる! そして私は更なる力を得て、世界を手に入れるわ!」
「そんなことしたって、ご祝儀はやらねえからな! つーか、てめぇとしののんの結婚式も出てやらねえから!」
「いや、自分は結婚する気ないんやけどね!」
結婚を前提で話が進みそうなので、弟の無事を確かめて安堵の息を吐いていた東雲が慌てたように叫ぶ。
「結婚式はどんなことをしてでもやるわよ。半年後に、会場も押さえてあるわ。ウェディングドレスだって特注をお願いしてあるもの」
「――な」
知らないところで話がどんどん進んでいたことに東雲が絶句していた。
もし夏樹の京都行きが遅ければ、茨木童子と結婚させられていた可能性もある。
「……独りよがりすぎてきもちわりぃいいいいいいいいいいいいいいいい! 式場の人、聞かなかったの? あの、ご結婚相手は? って? あ、もしかして、夫は仕事が忙しくて〜、もうなんでも私任せなんですぅ、とか言ってそぉ! きめぇええええええええええええええええええええええ!」
「……まるでその場を見てきたように好き勝手にっ! 鬼を舐めるなっ、人間がっ!」
夏樹の指摘通りだったのだろう。
怒りに身を任せて爪が伸びた手を夏樹に伸ばす。
だが、茨木童子の腕は夏樹に届く前に、見えない速さで切断された。
「……っ」
「あれ? 想定していたよりもかなり弱いけどどったの? いーやー、違うな! 宇宙河童大神の加護を持つ俺が強すぎるのさ! そうだろ!? なあ、宇宙よ! 天の川、いや、ミルキーウェイよ!」