作品タイトル不明
64「敗北じゃね?」
「おいおい、佐渡。お前な、あまりふざけてるんじゃねえよ。ほら、起き上がって熊童子を殺すなり捕縛するなりちゃっちゃと……おい?」
鼻血を噴出して倒れた祐介に千手が近づき声をかける。
だが、様子がおかしい。
顔をそっと祐介に近づけた千手は、次の瞬間、彼を慌てて仰向けにして心臓マッサージを始めた。
「……由良あぁあああああああああああああああああ! 雷だ! 電気ショックだぁあああああああああああああああああ! 佐渡の馬鹿息してねぇええええええええええええええええええええ!」
「はぁああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
夏樹が絶叫して駆け寄り、聖剣から借り受けた雷を思い切り祐介に叩き込んだ。
――しばらくして。
「――はっ!?」
「佐渡! お前って奴は!」
「興奮して死んじゃう人なんて初めて見たんだけど!?」
「あ、あれ? 僕は、熊たんと星たんと虎ぴーと一緒にハワイでハネムーン中だったはずなのに」
「残念だけど、それは平行世界の出来事なんだろうねぇ。現実は、まだバトル中だし、祐介くんは好かれるどころかめっちゃ嫌われてるから」
「おい、こら! そこの変態ベロベロ男! あたいのことを虎ぴーとかいうんじゃねえよ!」
「……照れているだけでは?」
「ガチでドン引きでしょう」
「――ちくしょう!」
祐介は無事に目覚めたが、自分に都合のいい世界線を探して意識を飛ばしていたようだ。
残念ながら、辛い現実と向き合わなければならない。
もう祐介に戦う気力は残っていなかった。
「えーっと、祐介くんは負けでーす。熊童子さんの勝ちでオーケーでーす!」
「くまくまー!」
負けたのなら仕方がないと、夏樹は熊童子を殺すことを諦めた。
さすがにどんぐりと蜂蜜を愛する熊さんを殺すわけにはいかない。
「よし! じゃあ、次はあたいだな! ――虎童子! 参るぜ!」
くすんだ金髪を伸ばした袴姿の虎童子が拳を叩き、前に出てきた。
「佐渡じゃねえが、まだ大将が出る必要はないさ。安心しとけ、俺は勝つぜ」
サングラスを外して懐にしまう千手が、虎童子に向かって前に進む。
(あれー? 気づいたらタイマン方式になってるぅ? ま、いいか)
夏樹は祐介を引きずると、レジャーシートの上に戻り、再びお茶を飲み始めた。
隣では、小さなテーブルの上に新聞紙を広げ落花生を剥き出した小梅と、この展開をなんともいえない顔で見ている東雲もいる。
「しののん。ノリも大事だよ」
「…………せやね」
遠くを見てから返事をした東雲の目にきらりと光るものがあったことを、夏樹は見ないふりをした。
こうして初戦は祐介が熊童子に敗北することになったが、戦いはまだまだ続くのだった。