軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

61「酒呑童子も動くんじゃね?」

酒呑童子は、かつて最強の鬼と言われていたが、人を食うことをやめ、力に固執することに飽きたことをきっかけに緩やかな弱体化をしていた。

だが、同時に、知名度などから、神格を持ち鬼を超えた鬼である。

――だが、その力を持ってしても、娘である茨木童子には戦って勝てないとわかっている。

「……酒呑童子……お前、なぜ力を取り戻している?」

「茨木、お前さんと一緒だよ」

「――まさか、完全なる血統がまだいるのか!?」

「どうやら、お前さんの急な強化も完全なる血統が原因だったんだなぁ」

酒呑童子の脳裏で夏樹がぐっ、と親指を立てている。

「ええ、完全なる血統を死ぬまで血を吸いつくしたわ。おかげで、今の私がいるわ」

「にしても、まだ強くなったじゃねえか」

「完全なる血統が無理でも、それに近い人間はいるのよ。人間って、鬼よりも恐ろしく、愚かね。金を払えば、人が人を当たり前のように攫ってくるのだから、食べるには困らないわ」

「はいはい、そうですかー」

作業服を身につけているが、雄々しい二本の角と、鋭い牙、丸太のように太い腕には鋭い爪がある。

鬼らしい鬼。

単調な鬼。

しかし、酒呑童子から発せられる霊力は、大気が震えるほどだった。

「……酒呑童子って、なんだよ、おい!」

「そうよ! なぜ酒呑童子が私たちを守るの!」

「嬢ちゃん、そこで警戒している熊みたいな兄ちゃんもよく聞け、俺はギャラクシー河童勇者たちの味方だ!」

「あー。あいつら来たのか!」

「私の王子様、京都に降臨!」

「あ、股間が痛くなってきた」

「普通の反応がひとりしかいないな!」

叫ぶ音叉、夏樹の存在にときめくきらら、潰されかけた股間の痛みを思い出し前屈みとなった熊崎。

そして、苛立ったように爪を噛んだのは茨木童子だ。

「またギャラクシー河童勇者なのね……まさか、酒呑童子までが関係者だったとは……察するに私に対抗すべく集めた戦力、そうね、河童の王様と言ったところかしら」

「……ちげえよ?」

「…………」

「…………」

「またギャラクシー河童勇者なのね。……まさか、酒呑童子まで関係者だったとは……察するに私に抵抗すべく集めた戦力、そうね、河童を名乗るのはカモフラージュでおそらく高位の魔族か神々でしょう」

「……やり直したところ悪いんだが、違うぜ」

「…………」

「…………」

「またギャラクシー河童勇者なのね――」

「しれっと三回目やろうとしてんじゃねえよ!」

いくら茨木童子とはいえ、馬鹿みたいに強い中学生が勝手に河童をリスペクトして名乗っているだけだなどわかるまい。

酒呑童子にだってわからん。

九尾の狐だって、思考を放棄した。

実際に会って、飯を食っても、なぜ河童なのかわからなかった。

あとギャラクシーもどこから飛んできたのか理解不明だ。

悩んだ末に、「最近の若い子は」と魔法の言葉で納得することにしたのだ。

本人にすら会っていない茨木童子が存在を理解できるはずがないし、会ったとしても無理だろう。

「まあ、なんだ。父親らしいことはしたことがないが、娘が馬鹿なことをしないように――一度だけ忠告をしてやる」

「言ってみなさい」

「もうやめておけ。お前が相手にしようとしているギャラクシー河童勇者は強えぞ」

「私以上に強くはないでしょう」

「それは、そうだな。だけど、ああいう奴が――一番怖い」

酒呑童子はもちろん、茨木童子は何度も経験している。

恐るべきは神でも魔族でもない。

磨かれた強さを持つ者でもない。

夏樹のように、規格外な存在だ。

今までも規格外な人間に痛い目に遭ってきた。

「かつての私なら、その言葉も理解したでしょうね。でも、今の私は違うわ。裏京都はすでに支配している。九尾も殺す準備はしているわ。人間も近いうちに、私に這いつくばるわ。そうしたら、私はしののんと白い家に可愛い子供と大きな犬を飼って幸せに暮らすの。もう、土地も手に入れて、職人さんと挨拶もしたわ。来週は地鎮祭があるから忙しいの」

「……うわぁ。我が娘ながら、モテない期間が長すぎたせいでなんかどろっとしていて嫌だなぁ」

東雲と暖かい家庭を築くために着々と準備をしている茨木童子に酒呑童子はドン引いた。

「止めると言うのなら止めてごらんなさい。こちらには、安倍円がいるわ。この子には、ちょっと利用価値があってね。だから、傷つけたくないのだけど、もし私になにかをしようとするのなら、平気で盾にするわよ」

「……鬼だねぇ」

「鬼ですもの」

酒呑童子としては安倍円ごと茨木童子に攻撃できるが、夏樹が円の生き別れの幼馴染であると聞いているので、手出しすることを躊躇われた。

できることなら、夏樹とはいい関係でいたい。

また、安倍東雲の行動理由は円をはじめ、家族だ。円を害せば、京都で一番面倒くさい人間を相手にすることになる。

「降参だ。好きにしろ。ただし、表で何かするんじゃねえ。この条件を飲めないなら、俺は全力を持ってしててめえを殺す」

「おい、こら! 酒呑童子! てめぇ、円を好きにしろとかどういうつもりだ!」

「そうよ! あんな可愛い弟ですもの! きっと言葉にはできない辱めに逢うんだわ!」

「……いや、嬢ちゃんたちも向島の奴らみたいなこと言うなよぉ」

酒呑童子は、あくでも表の人間に迷惑をかけないようにと止めに来ただけであり、裏でやり取りするのなら拘る気はない。

無論、円の姉である音叉ときららが納得できないのもよくわかる。

「話がわかるようでなによりだわ。いいわ。ここにはもう用はないもの」

「そうか」

「酒呑童子……興味があるでしょう? 私が何をしようとしているのか? 気になるのなら、裏京都に来なさい」

そう言い残して、茨木童子は姿を消した。

「……今生の別れになるかもしれねえから、裏京都に行くとしますか。なっちゃんの強さもみてみたいしな」

「ちょっと待て、酒呑童子! 話はわからんが、茨木童子を追うなら行くぞ!」

「マイプリンス夏樹が来ているのなら、プリンセスきららが馳せ参じなくてはならないの! 早く案内なさい!」

「さ、最近の子ってやっぱりグイグイくるなぁ!」

酒呑童子は、音叉ときらら、そして未だ股間を押さえてうずくまっている熊崎を連れて裏京都へ向かうのだった。