作品タイトル不明
53「裏京都ってテンション上がるんじゃね?」②
「裏京都……あると聞いたことはあったが、本当にあったんだな」
千手は耳にしたことはあるようだが、存在そのものをはっきりと知りはしなかったようだ。
玉藻前が肯定するように頷く。
「うむ。昔のう、せーめーとかどぅーまんとか妾たちを京都から締め出しよったんじゃよ。妾たちもまだぶいぶい言わせておったんで、戦いながら自分たちの拠点を作ったんじゃ。それが裏京都なのじゃ」
「……昔の人強すぎね!? いや、まあ、せーめーとかどぅーまんならしゃーないのか」
酒呑童子引きいる鬼たちと、玉藻前や大陸から渡ってきた妖怪など徒党を組んで戦ったが、最終的に決着がつくことはなかった。
昔の霊能力者たちが強すぎたのだろう。
「そんなわけなのじゃが、時代は変わり戦やら戦争やらで多くの血が流れ、結界も弱まってしまうと妾たちも普通に行き来できるようになったんじゃ」
「一応は、まだ結界は生きてるから、力を十全に出せねえし、出したとしたらまずいことになるんだが、それはおっちゃんたちのような強い妖怪たち限定だけでな。雑魚は本気出しても雑魚だから結界が作用しねえんだわ。特に最近生まれた妖怪とか、もう雑魚も雑魚だからなぁ」
魑魅魍魎が当たり前に跋扈している時代の妖怪と比べると、最近の妖怪は弱いようだ。
その辺りに夏樹は興味を覚えたが、まずは話を先に進めることが先決だ。
できることなら、茨木童子は今日殺したい。
夏樹は、嫌いなものから食べるタイプなのだ。
「じゃあ、裏京都ならどれだけ暴れ回ってもオーケー?」
「げ、限度があるんじゃが、妾たちがガチで争っても平気じゃったから、表の京都の市街に影響することはないじゃろうな」
「ま、仮に影響があったらあったで仕方がねえよ。弱え奴らは強え奴らに文句なんて言わねえんだよ」
「そうじゃなぁ。一応、妾の屋敷もあるんじゃが、こっちの京都にも屋敷はあるし、引っ越しのタイミングだと思えばええのじゃ」
「いいんだ!? 割り切りがすごいなぁ! まあ、気を遣ってと言われても気を遣うつもりはあんまりないんだけどさ!」
「なっちゃんのほうが割り切りがすごい気がするんじゃがのう」
玉藻前に呆れられ、夏樹は肩をすくめた。
とりあえず、文化財の類を破壊せずに済むのであればほっとする。
さすがに破壊の限りを尽くしましたと言って母に叱られるのはごめんだ。
「由良夏樹くん。いえ、由良夏樹殿」
「しののん?」
畳に手をつき、安倍東雲は額をこすりつけるように頭を下げた。
「どうか、お力をお貸しください。自分は、家族のためにあなたを利用するつもりでした。茨木童子を倒せんでも、酒呑童子殿にあなたをぶつけることも考えていました」
「気にすることはないよ、安倍東雲さん。家族が家族のことを想うのは当たり前のことだからさ。むしろ、家族なんてどうでもいいなんてことを言う奴の方が、俺は仲良くできない。俺は俺のために戦うけど、安倍円くんの呪いも解きたい。だから、こちらこそお願いします。俺に力を貸してください」
夏樹は東雲に近づくと、彼の手を取り力強く握りしめた。
「……ありがとう、どうもありがとうございます!」
東雲は、本当の意味で理解し、頼れる相手ができたことに、一筋の涙を流すのだった。