作品タイトル不明
51「混沌じゃね?」
――美脚。
なぜ由良夏樹が美脚にときめくかと言うと、きっかけは幼い頃だった。
なんてことはない。
外出先で迷子になった時、不安に駆られるも泣くものかと歯を食いしばっていたその時、
「なんじゃ、おどれは迷子か?」
少し口調の荒いお姉さんに助けられたことがあった。
背が高く、顔はよく見えなかったが、幼い夏樹の視界いっぱいに広がったのは美脚だった。
その後、無事に母と合流でき、美脚のお姉さんとはちょっと挨拶しただけで別れてしまった。
だが、夏樹の心にも、脳にも、魂にもはっきりと美脚は刻まれたのだ。
――以来、夏樹は美脚派になったのだった。
■
「くぅ、なんてことだ! 京都に酒呑童子と愉快な安倍一族を殺しに来たと思ったら、こんなところで美脚を拝めるとは……俺も偉くなったもんだぜ」
「……声に出とるぞ?」
「ああっ、なっちゃんったら正直者さん!」
ぺちん、とアヘ顔から戻ってきた小梅に頭を引っ叩かれた夏樹は、心の声を口走っていたことに気づいた。
急に爆乳美脚美女になってしまった玉藻前を前にして、いくら異世界の勇者であっても動揺を隠せなかったようだ。
「……まあ、俺様のほうが美脚だがな!」
「うっす! そりゃもちろん、小梅ちゃんの美脚は最高です!」
「わかっておるならええんじゃ」
「あざっす!」
ジーンズ越しでもわかる小梅の神々しい美脚をチラ見せされ、夏樹は正気を取り戻した。
わずかに覗く、くるぶしから脛にかけてのラインが夏樹を導いてくれる気がした。
「おい、美脚勇者とキャラ作り天使の姉さん! 漫才していねえで、こっちをなんとかしてくれ! 佐渡がやばいんだって!」
「あのさ、千手さん。それだと俺が美脚みたいじゃん。別に、美脚になりたいなんてことは」
「誰もそんなことは言ってねえんだよ! 佐渡が玉藻前様を見て気絶しやがった!」
「うそぉ!?」
「ありえへんじゃろう!? さすが、国を傾けただけの美女であるんじゃな。いいじゃろう。玉藻前! おどれをライバルと認めてやるんじゃ!」
びしっ、と玉藻前に指を差す小梅に、アヘ顔から戻った玉藻前が動揺する。
「いや、急にライバル認定されても困るんじゃが」
「まず、その口調がめっちゃ被っとるんじゃくぉら!」
戸惑い気味の玉藻前を睨む小梅はとりあえず放置して、夏樹は祐介に近づき、沈痛な顔をする。
「――っ、祐介くん。まさか、玉藻ちゃんのアヘ顔を見て感動したせいで自分までアヘ顔になってしまうなんて」
「いや、――っ、じゃねえから。なんだこれ、くだらなすぎだろ! もう面倒臭えから、はやく茨木童子ぶっ殺しに行こうぜ!」
だんだん面倒くさくなった千手が、全部の責任を茨木童子に押し付けようと考えだした。
そんな光景を唖然と見ていた、東雲は。
「なんや、肩から力抜けたわ」
と、緊張していたのが馬鹿みたいだと、力を抜いたのだった。