作品タイトル不明
46「唐突な過去編じゃね?」②
「ご存知のようで何よりだよ、少年。私は雅也」
「……雅也て」
「ご覧の通り小さいおじさんだ」
「あ、はい。こんにちは、安倍東雲です」
突如現れた小さいおじさんに、東雲は毒気を抜かれてしまった。
妖怪として祓うべきか、都市伝説との邂逅に喜ぶべきか悩んだ。
あと、流暢な日本語を話しているくせに、カイゼル髭を整えた一昔前のイギリス紳士な格好にも驚きを覚える。
小さいおじさんというより、小さな紳士だ。
「そ、それで小さいおじさんの雅也はんが、自分に何か用でもあるんか?」
鬼とも神とも違う存在に、東雲は若干の警戒を込めて尋ねる。
そんな東雲に彼はシルクハットを取り、微笑んだ。
「警戒する気持ちはわかるが、私は君の力になりたい」
「自分の? どういう意味や」
「――君は、ここの場で鬼に襲われた少年の知り合いとみたのだが、合っているかね?」
心臓が跳ねた。
この小さいおじさんが何を知っているというのか。
「……ここで鬼に襲われた子は、自分の弟の大切な友達や」
「そうだったのか。お悔やみ申し上げる」
「――やっぱり」
『お悔やみ申し上げる』と言われ、東雲は最悪の想像をしてしまう。
雅也は目を伏せた。
「ここで襲われた少年はふたり。ひとりは鬼から友人を守ろうと必死に立ち向かった。しかし、もうひとりは……無惨にも食い殺されてしまった」
「……ああ……なんてことや、自分は円になんて言えばいいんや」
雅也の言葉に嘘はないとわかる。
そもそも東雲の前に出てくるメリットはないのだ。
「私に力があれば助けることができたのかもしれないが……私は小さいおじさんでしかない。申し訳ない」
「かまへんよ。情報をもらえただけでも感謝しとる。でも、なんで、教えてくれたん?」
「……恐ろしい鬼を相手に、幼い子供たちが自分のことなどそっちのけで友のことだけを考えていた。そこに間違いなく愛があったのだ。私は、恐ろしくて見ていることしかできなかった臆病者だが、そのことを伝えなくてはならないと思った」
「……おおきに」
東雲は、雅也に深々とお辞儀をした。
円の友達は残念ではあるが、最後まで互いを思いやっていたことを知れただけでも救われる。
だが、それで良しとはならない。
「雅也はん」
「なにかね?」
「一部始終を見ていたというのなら、自分の弟の大切な友達を襲った糞食らえな鬼のことももちろん見とるんよな?」
「無論だ。だが、教えてしまうと君が勝てない相手に挑むことが明白なので、言うべきかどうか悩んでいる」
「……雅也はん。自分はね、お兄ちゃんなんよ。弟と妹のお兄ちゃんなんよ。せやから、弟を傷つけた鬼を許すわけにはいかないんよ」
「……私が言わずとも、君は危ういことをしてでもあの鬼を探しそうだね。ならば伝えよう」
雅也がステッキを鳴らした。
「君の弟と友人を襲い、暴力を振るって血肉を食らった鬼は――古の時代から京都の鬼の上位に立つ、伝説の鬼の一体! ――茨木童子!」
雅也から伝えられた言葉に、東雲は思い切り拳を握った。
「なにが円を助けたや。自分らに恩を着せようとするなんて、こざかしい鬼や。ええよ、ええよ。上等や。殺したる。ぐちゃぐちゃにして、踏み躙ってやる。円の分も、あの子の分も、僕が復讐したる」
――こうして、安倍東雲は復讐のために長い時間を費やすのだった。