作品タイトル不明
45「唐突な過去編じゃね?」①
「はぁあああああああああああああああああああ!?」
叫んだのは夏樹だけではない。
小梅も、千手も祐介も信じられないとばかりに叫ぶ。
酒呑童子と玉藻前も、夏樹が鬼に襲われたことを知らなかったので、興味深そうにしていた。
「遡ること数年。私が安倍東雲くんと出会った時の話をしよう。――ほわんほわんほわんほわんほわん」
「回想するときのふわっとした効果音を口にする人初めて見たよ!?」
――数年前。
学生服を着た安倍東雲は、血溜まりをそっと手袋をはめた指でなぞった。
「……まさか霊力に目覚めてもおらんのに……円が鬼に襲われるんなんて……くそったれ」
口汚く、鬼を罵る東雲は苛立ちを隠せずにいた。
正直、彼は混乱している。
弟、安倍円が鬼に襲われた。
鬼は平気で一般人を襲うのだ。
霊力に目覚めていない円も、襲われる可能性は平等に等しい。
だが、まさか、ここ最近親しくしていた少年を目の前で食われてしまうなど、誰が想像できようか。
「……自分がもっと気にかけとったら。それは言い訳やね。自分はできるなら円には普通の子として生きて欲しかったんや。せっかく安倍家から出たんに、どうしてこんなことにっ!」
がんっ、と音を立てて近くにあった自動販売機を殴りつけた。
彼の膂力によって、自動販売機がくの字に曲り、背後の壁に亀裂を走らせる。
「よりによって、酒呑童子と同等におっかない茨木童子が円を助けたやて? 自分を馬鹿にしたらあかん。鬼がそんなことするはずないやろ。弱った子がいたら、嬉々として食うに決まっとる」
京都の霊能力者は、現在二つの派閥に分かれている。
妖怪と共存を願う穏健派と、妖怪を――特に鬼を根絶やしにしようとする強硬派だ。
安倍家は穏健派に所属しているようだが、安倍東雲個人としては強硬派だ。
すべての鬼を、いや、酒呑童子をはじめとする大物の鬼を殺せば、下っ端の鬼などなにもできない。所詮、酒呑童子を後ろ盾にやりたい通りにしているだけの小物だ。
「殺したる」
濃密な殺意が霊力と共に彼の身体から漏れ出していく。
いっそこの霊力に誘われて鬼が現れればいいとさえ思う。
安倍東雲は、学生でありながら京都で一番と謳われる実力を持つ。
関東を中心に霊能力者を管理する『院』が運営する霊能力者育成学校に殴り込み、教師を含めて立ち向かってきた者を全て叩きのめして看板を奪ったことさえある。
鬼にも負ける気はしない。
仕込み中ではあるが、自分の術式が完成すれば酒呑童子でさえ殺せると自負するほどだ。
「Excuse me?」
「……うん?」
「お怒りのところ、申し訳ないが、君と話をしたい」
「誰や?」
周囲を見渡すが人の気配はない。
「ここだよ。少年」
その声は下から聞こえていた。
まさか、と思い下を向くと、
「激しい怒りを抱く少年よ。私は人ではないが、君と友好的に話をしたい」
テールコートとシルクハット、ステッキを持つ、二十センチほどの中年男性がいた。
東雲が壊した自動販売機の影からそっとこちらをのぞいていた。
「――小さいおじさん!?」