作品タイトル不明
41「酒呑童子と玉藻前って豪華じゃね?」③
「じゃあ、話も終わったことだし、安倍家に殴り込みにいくか!」
「待て待て待て待て」
立ち上がった夏樹を千手が押し留める。
「まあまあ、にいちゃん。安倍家に今から突っ込んでったってしゃあないだろう」
「じゃあ、どうしろって言うんだ?」
「放っておくのが一番だってことだ」
「はぁ?」
再び座った夏樹は、怪訝な声を上げた。
酒呑童子は淡々とした口調で言った。
「馬鹿と馬鹿が馬鹿をやろうとしているだけだ。うまくいくはずなんてねえ。放ってけば、勝手に殺し合って死ぬ。人間は鬼なんて制御できねえし、鬼も人間の欲深さをどうにもできねえんだよ」
「だからってさぁ」
「その過程で誰かが死んでも、おっちゃんのせいじゃねえし、にいちゃんたちのせいでもねえ」
「…………」
「構ってちゃんを律儀に構ってやる必要はねえんだよ」
酒呑童子の言うことは間違っていない。
鬼も人間も、お互いの欲望や利益を考えて行動している。
いずれは両者の間に問題が生じて、結局関係は破綻するんだろう。
「酒呑童子のおっちゃんが言っていることはわかるよ」
「……でも、その顔は納得いってねえって顔だよな」
「うん。すでに俺は鬼に狙われた。いや、俺のことはいいんだよ」
雑魚の鬼に襲われた程度でどうにかなるような夏樹ではないことは、自分自身がよくわかっている。
「だけど、もしもさ……鬼が、いや、霊能力者であっても、俺の親しい人になにかをすれば……俺はきっと自分を制御できないと思う」
「気持ちはわかるぜ」
「なによりもさ! ――俺は異世界帰りの勇者なんだよ。異世界は救う価値なんてなかったけど、この世界は違う。過ちも起きるだろうし、よくないことだってたくさんある。だけど、この世界に生きる人たちは一生懸命に生きている。ならば――傷つけさせたくない」
きりっ、とした顔をした夏樹に、酒呑童子が胸を押さえた。
「――とぅくん」
「いや、おどれがときめくんかいっ! おっさんの胸キュン顔とか誰得なんじゃ!?」
ときめいた酒呑童子に、小梅が思いっきり突っ込んだ。
千手と祐介が夏樹の肩に手を置く。
「おいおい、由良ぁ。笑わせんな、お前がそんな綺麗事で戦うわけがねえだろ」
「千手さん酷い!」
「本当だよ。夏樹くんは知り合いでもなんでもない人が鬼に食われても平気でしょう?」
「祐介くんまで! 俺泣くよ!」
友人たちに誤解されていることに、夏樹は悲しくなった。
「安心しろ、由良。俺は、馬鹿が馬鹿やってるのが大っ嫌いなんだ。綺麗事抜きで、ぶっ潰してやる」
「京都の善良な妖怪さんは僕が守る! 人間を襲う妖怪さんは、申し訳ないが、僕の糧となってもらうよ!」
「……なんていうか、千手さんも祐介くんも大概だね」
どちらも行動理由がシンプルでいい。
「おら。正直に言ってみ」
「夏樹くんが鬼と安倍家をぶっ潰す理由はなーんだ?」
「ふっ。お見通しか。問われたのであれば、答えよう! それは――」
すうっ、と大きく息を吸い込んで、少し間をためて夏樹は叫んだ。
「京都に来るまでの費用と時間がもったいないからだぁああああああああああああああああああああああ! もとをとるまで、俺は帰らねえぜぇえええええええええええ!」
あまりにも夏樹らしい理由に、千手が口笛を吹き、祐介が拍手をし、小梅が「とぅくん」した。
「いや、俺のときめきを返せよ。つーか、鬼よりも鬼な理由だな!」
「……この子は本当は、鬼神かなにかじゃなかろうな?」
正義もなにもない夏樹の行動理由に酒呑童子と玉藻前もドン引きだった。