作品タイトル不明
40「しののんといばちゃんじゃね?」
ギャラクシー河童勇者由良夏樹が酒呑童子とトラック越しに邂逅している頃、マンションを出た安倍東雲は茨木童子とカフェのテラスで会っていた。
「急に呼び出してごめんね」
「いいの。それよりも、あの後、弟さんとどうだった?」
「あー、円は相変わらずや。鬼といろいろあったんはいばちゃんも知っとるやろ」
「うん」
「鬼との共存っていうんも頭では理解ができるようやけど、心のほうではまだできないみたいなんよ」
「仕方がないわよ。大切な人を目の前で失ったんだものね。かわいそうに。私がもう少し早く駆けつけていればよかったのに……ごめんなさい」
「いばちゃんが謝る必要なんてないんよ。円を助けてくれはったことだけでも感謝しとるんや。それ以上求めたらバチが当たってまう」
テラスで堂々と話をしているが、ふたりの声は周囲には聞こえない。
そういう術を東雲が施しているのだ。
また、この術は鬼である茨木童子を霊能力者から隠す作用もある。
酒呑童子の娘である茨木童子は、強硬派の霊能力者に狙われている。
戦えば茨木童子のほうが強いのだが、戦いを好まないという彼女のために東雲が術を施しているのだ。
「先日は、情報をくれてありがとう。穏健派霊能力者に少し聞いてみたら、自分の実家がくだらんことを企んどったみたいで恥ずかしかったわ」
「鬼にも人間にも欲深い者はいるわ。親御さんが悪い方でも、しののんはいい人じゃない」
「ありがと」
テーブルに置かれた東雲の手を茨木童子がそっと触れた。
「私の父の、酒呑童子の殺戮にはついていけなかったわ。だから兄妹と離反したけど、酒呑童子の信奉者は今でも多いわ。最近じゃ、酒呑童子が雲隠れしたせいで跡継ぎを決めようなんて動きまであるの」
「鬼ども……ほんま余計なことしかせんね。あ、いばちゃんのことやなくて」
「ううん。わかってる。しののんの言う通り、余計なことしかしないわ。妹たちも一癖二癖あるから困っているの」
「どっちも身内が大変やね」
「そうね。安倍家はどうするつもり?」
「あの家は潰すことにしたんよ。自分がいれば、家自体は継続できるし、老害と無能は退場してもらおうかなて」
「……残念ね」
茨木童子が悲しそうに目を伏せた。
「ありがとう。いばちゃんのおかげで自分の心が癒やされるんよ」
「ふふふ。私だって、しののんにずっと支えてもらっているもの」
ふたりの関係は長い。
円が鬼に襲われた日からの付き合いだ。
茨木童子は東雲に対して、信頼と強い好意を抱いている。
「……でも、少し不安なの」
「なんでや?」
「妖狐側の内通者から聞いた話だと、酒呑童子は玉藻前と繋がっているようなの」
「……なるほど」
「どうりで探しても見つからないはずよ。場合によっては、妖狐たちと事を構える可能性があるわ。それでも力を貸してくれる?」
「もちろんや」
「――ありがとう。男の人にこんなに優しくされたことはないわ」
「いばちゃんは自分にとって大切な人やもん」
ふたりは見つめ合う。
「……そうや、僕もいばちゃんに注意してもらいたいことがあったんよ」
「なにかあったの?」
「強硬派の馬鹿がいらぬちょっかいをかけたせいで、ギャラクシー河童勇者が京都に来とるんよ」
「――ほえ?」