作品タイトル不明
38「酒呑童子と玉藻前とか豪華じゃね?」①
「あー、ごほんっ。妾が玉藻前じゃ。由良夏樹殿のお名前は京都にも轟いておる。……どうか京都の街を破壊しないようお願い申し上げる」
挨拶を仕切り直した玉藻前は、夏樹に向かい深々と頭を下げた。
「……特に破壊をしていないのに破壊神扱いは解せぬでござるでカッパー」
「語尾が迷走しすぎじゃろ」
「まもんまもん」
「残念じゃが、まもんまもんは俺様たちとは違う次元に到達してしまったんじゃ。おいそれと使うことは許されんぞ?」
「……戯言はいいから早く話を続けてくれ」
夏樹と小梅の掛け合いに、千手が頬を引き攣らせて先を進めた。
「とりあえず、破壊の限りをすることを目的に京都に来たわけじゃないので、顔を上げてください」
「う、うむ。話が通じる人間でよかったのじゃ」
「でも、重要文化財や国宝はたとえ破壊されても、心の中に在り続けると思うんです」
「破壊する気満々なんじゃが!?」
「ジョーク! 勇者ジョーク!」
「いや、真面目に笑えんのじゃが」
はははははは、と笑う夏樹に対し、誰も笑えなかった。
「あれ?」
「それで、兄ちゃんはなんでまた妖怪の中でも大妖怪でイケオジと名高い酒呑童子を殺そうと思ったんだ?」
「盛るなぁ!」
「盛ってないから! 日本中の妖怪の兄貴分として慕われているイケオジ妖怪だから!」
「そんなイケオジ妖怪さんが俺の平和な生活を害しようとしているので、殺しに来ました」
「おっちゃんが何したっていうんだよ!?」
「だって、どいつもこいつも酒呑童子酒呑童子って! もうとりあえず酒呑童子殺しておけばよくね?」
「なにその発想? やっぱりこの子怖い」
実際、京都の霊能力者は酒呑童子討伐を第一にしている。
酒呑童子の息子である金童子も夏樹を殺しに来た。
ならば、その責任を酒呑童子に取ってもらうのは仕方がない話だった。
「……戦後から俺は一般人として暮らしているんだけどなぁ」
「由良殿。かつての酒呑童子はさておき、現在の酒呑童子は人間に害を与える存在ではないとお約束しますのじゃ」
「さっきもちらっと言ったけど、俺は人間をずっと食ってねえんだよ」
鬼は人間を喰らうというのが、霊能力者の中で一般的だが、酒呑童子は否定した。
夏樹は興味を覚え、耳を傾ける。
「なんつーか、鬼だけじゃねえ、妖狐も、それこそ神に準ずる奴らだって昔は人間を食らってたさ。俺らの糧は、血肉もそうだが、霊力を欲する。昔は、妖怪同士の殺し合いや、神との喧嘩、外国の異形と戦うことも多かった。そうなると、まあ必然に人間を食らってたさ。同族喰いもなかったわけじゃないが、ぶっちゃけ鬼はゲロまずい」
「……人間は美味いのかよ?」
「正直に言うが、不味い」
「……今まで食べてきた人間さんに謝れよー」
「ごめんねー」
人間をはっきり不味いと言った酒呑童子に、夏樹は軽く対応するが、千手や祐介は引いていた。
過去に食われた人間も、不味いと言われたら納得ができまい。
「力の補給だ。俺だってどうせ食うなら、ちゃんと美味いもんが食いてえ。それに気付いたのが、戦後だ」
「……結構最近だね」
「江戸時代でも美味いもんは美味かったんだよ。特に舶来のものがなぁ。んで、戦後になって西洋文化がガンガン入ってきて、人間の衣食住がどんどん新しくなるじゃん。飯のうまさはやばかったね」
「その辺の時代はわからないなぁ」
残念ながら、夏樹には祖父母にあたる人間がいない。
昔話を聞かせてくれる人がいないのだ。
近所のおじいちゃんおばあちゃんが過去語りをするが、酒呑童子が話していることよりも最近寄りだった。
「戦いは散々してきたし、戦争でもううんざりしちまった。力を蓄える必要もないから、人喰いはやめた。むしろ、今の食生活最高! 外国のお酒大好き!」
「……にしては、強くね?」
「お? わかる?」
隠していた酒呑童子の力だが、しばらく一緒にいると隠蔽している力にも気づけるようになっていた。
「わかるさ。力を溜め込むことを放棄して、それじゃあ……やばいなぁ」
――酒呑童子の強さは神々に匹敵していた。
天叢雲剣を抜く前の素盞嗚尊に近い、力があると思われる。
これが、日本中に名を轟かせ、信仰さえ集めた大妖怪なのだ、と夏樹は身震いしてしまう。
「きっと、酒呑童子のおっちゃんが力を溜め込んでいたら……いや、ちゃんと殺す気で戦ったら、今の俺では勝てないかもしれないなぁ」
「おっちゃんに勝てる奴なんてめったにいねえから気にすることはねえよ」
「……まあ、あくまでも今の俺には、だけどね。本気出したら余裕だけどね」
「そう言うことにしておこうぜ。俺は喧嘩も殺し合いも面倒臭くて嫌だ」
酒呑童子に大人の対応されてしまい、夏樹は拗ねたように頬を膨らませた。
「酒呑童子と俺のどっちが強いかは後にするとして、まあ、おっちゃんが人間を食わないのはわかった」
「おう。今は、優雅な独身生活だ。働き、汗を流し、いいもん食って、いい酒を飲む。これで人生は最高だぜ」
「……ある意味羨ましい生活なんだろうなぁ」
「おっちゃんみたいに歳を重ねたらわかるぜ。ま、それまではやんちゃしとけ」
酒呑童子からは本当に敵意もなにもない。
正直、京都の霊能力者たちが躍起になって倒そうとする理由がわからない。
(京都の霊能力者どもはさておき、しののんは酒呑童子と戦うことをデメリットだと思うくらいの分別はあると思うんだけど……あれー?)
安倍東雲の言動に、夏樹は少し違和感を覚えた。