作品タイトル不明
35「酒呑童子の事情じゃね?」②
「……酒呑童子の子供ってことは、茨木童子とかじゃったのう」
「おう。安倍とやり合ってるならもう知ってるだろう?」
「まあのう。金童子はすでに向島のやんちゃボーイがぶっ殺しておるんじゃが」
ちらり、と小梅たちがおかわりのトンカツを頬張って幸せそうにしている夏樹を見た。
「うん? どうしたの?」
「おどれはまだ食っとるんか!?」
「育ち盛りなんです。ほら、これから酒呑童子と殺し合いだから食べられる時に食べておかないとね」
「……あれ? にいちゃん、まだおっちゃんと戦うつもりなの?」
「うん。旅のしおりに書いてあるもん。酒呑童子を殺すまでが京都旅行ですって」
「おっかしいなぁ。俺を殺してもなーんも解決も改善もしないんだけどなぁ。今の若い子ってこんなかぁ。まじかぁ」
「いや、こやつが規格外なだけなんじゃが」
とんかつと白米を綺麗に食べ終えて、冷たいお水を飲み干すと、手を合わせた。
「ごちそうさまでした! ふう。食べた食べた。まさか酒呑童子のおっちゃんにこんなに美味しいトンカツを奢ってもらえるとは思わなかったよ。ありがとう」
「いいってことよ」
「思っていた酒呑童子とは全然違くてびっくりだよ。んじゃ、やろうか」
「だーかーらーねー! おっちゃんと殺し合っても意味がないんだって!」
「そうなの?」
「この子話聞いてないんだけど!?」
「トンカツに夢中でした」
「いや、そんなキリっとした顔をされても困るんだけどなぁ」
満腹なお腹をさすった夏樹が、酒呑童子に簡潔に問うた。
「おっちゃんを殺しても解決しないのはわかったけど、じゃあ、誰を殺せば解決するの?」
「茨木童子、星熊童子、熊童子、虎熊童子、金童子だな。金童子はすでに殺しているようだから、残りの奴らだ」
「……あんまり子供を殺されたのに怒ったりしないんだね」
「あいつら、おっちゃんのことを殺そうとしてたからなぁ。特に茨木童子だよ。何年か前に、今までも強かったくせに阿呆みたいに強くなりやがって。ぬるま湯に浸かっていたおっちゃんもやばかったぜ」
「ってことは茨木童子をぶっ殺せばオッケー?」
「おっちゃんには誰がなにをしたいのかわからんのよ。興味もないっていうか、ちゃんとした家族をしていたのも何百年も前だしな。もうあいつらも大人だから、殺し殺されるのも自己責任だ」
「……おっちゃんの方がドライじゃね?」
「だってさぁ、あいつらの誰かが三下鬼を俺にぶつけてきたんだぜ。雑魚だったけど、俺のワインが割れちまってなぁ……許せねえよぉ」
「この辺はちゃんと酒呑童子だなぁ」
「わかるんじゃぞぉ! 酒の恨みなら仕方がないんじゃな」
「そして我が家のルシファーさんも相変わらずぅ!」
酒呑童子的には、茨木童子たちよりも酒の方が大事のようだ。
また、茨木童子たちも酒呑童子を殺したいと思っているらしい。
なにやら思惑がありそうだ。
(……まあ、みんな殺せばいいか)
夏樹がこっそり物騒なことを考えていると、個室の扉をノックされた。
「ご歓談中申し訳ございません。あの酒呑童子様」
「おう?」
この店と中居さんは酒呑童子の正体を知っているらしい。
「玉藻前様がいらしておいでです」
「なんであのババァが」
「よくわからないのですが、ギャラクシー河童勇者様にご挨拶したいそうです」
「ギャラクシー河童勇者ってどちらさま!?」
「――俺さ!」
「にいちゃんかよ! え? にいちゃんって河童さんなの?」
「いや、人間ですけど」
「だよなぁ」
「ただ、河童の守護聖人ですが?」
「意味わかんねから!」
さすがの酒呑童子も、ギャラクシー河童勇者の存在は知らなかったようだ。
いつまでも中居さんを困惑させておくわけにはいかないと夏樹が口を開こうとすると、がたんっ、と祐介が立ち上がった。
「玉藻前様……だと? それは本当かい?」