作品タイトル不明
34「酒呑童子の事情じゃね?」①
夏樹と千手がトンカツの美味さによるアヘ顔から戻ってきたことで、酒呑童子は咳払いをしてから仕切り直した。
「まさか向島市から今話題の由良夏樹がおっちゃんを殺しにわざわざ京都まで来てくれるなんて。嬉しいねぇ」
「……マジであんたが酒呑童子でいいんだな?」
第一に、確認という意味で千手が尋ねると、「おう」と肯定した。
「本性をここで見せてやることはできねえが、おっちゃんが酒呑童子だ。霊力なんかは、おっちゃんくらい長く生きていると隠し方も上手くなるんだよ」
「……伝説の妖怪酒呑童子とトンカツ食ったとかやべえな、俺」
千手は大妖怪を前に震えと興奮を隠しきれないようだった。
「いやいや、千手は天照大神、素盞嗚尊、月読と、とどめにグレイともあっとるじゃろう。おどれの目の前にいる美女はルシファーで、サタンもいるんじゃが。今更、島国の妖怪に震えるとかどうなんじゃ?」
「……あのな、混血の嬢ちゃん。おっちゃんはジャパンだとかなり有名なんだよ」
「天照大神よりもか?」
「それはずりぃよ! 太陽神と比べたら、どんな妖怪だって負けるよぉ!」
そりゃそうだ、と千手は少し力を抜いて苦笑する。
さすがに天照大神と比べるわけにはいかないが、それでも妖怪の中ではずば抜けた規格外だ。
魑魅魍魎が跋扈する時代から存在する大妖怪酒呑童子。
日本の霊能力者ならば、まず畏怖する存在だ。
「……でも、おじさんかぁ。酒呑童子美女説だったらよかったのになぁ」
「ブレんのう! 祐介! おどれの人外好きには小梅様もびっくりなんじゃが!?」
「なんだかすまねえな。だけど、見てくれのいい鬼は結構いるぜ。紹介してやろうか?」
「本当ですか!? あ、いや、勇者は魔の誘惑には乗らない! あ、これ、僕の連絡先です」
「……欲望に抗えなさすぎじゃろう!」
「……こういう素直なにいちゃんは嫌いじゃないぜ」
人外っ子好きな祐介の興味は、鬼っ子のようだ。
「……俺様がツッコミ役になるとは、さすが京都じゃ」
「京都関係ないんだけどなぁ。まあ、いいさ。お前さんらが安倍東雲と接触したのは知ってる。京都の鬼の扱いで人間たちの中でも争っているみたいだってこともな」
「詳しいのう」
「そりゃ、同じ京都にいるからな。……ただ、正直な話、おっちゃんにはどうでもいいんだよ」
「なんじゃと?」
小梅だけではない。
千手も、まだ見ぬ鬼っ子に思いを馳せていた祐介も、酒呑童子の発言に驚いていた。
「おっちゃんは酒呑童子で間違いねえ。だけどな、もう何十年も人間は食ってねえ。最後に食ったのも、戦争の時だ。戦後は、普通の人間として働いているし、納税もしているし、選挙だって行ってるんだぜ」
「……普通の市民よりもよっぽど市民してるな」
千手が驚きと呆れをまぜたように呟いた。
それもそのはず。まさか酒呑童子が一般人として生きているとは思いもしなかったのだ。
「あれ? じゃあ、酒呑童子さんは鬼を仕切ってないってこと?」
「おうよ」
「じゃあ、京都の鬼は誰が?」
祐介の最もな問いに、酒呑童子は軽々と答えた。
「――俺のガキたちだ」