作品タイトル不明
32「隠す気なくね?」
悪酒好太郎なんて、「お酒めっちゃ好きです!」と全力で主張している名前の人間がいるはずがない。
実際、夏樹は好太郎から霊力を感じ取っていた。
巧妙に隠されいるが、生まれ持つ力をゼロにすることはとてつもなく難しいことであると知っている。
生まれながら、生物には力が宿る。それを隠す方が違和感があるのだ。そして、その違和感を追えば、隠している力を暴くことも可能だった。
「ちちちちち、違いますよ? おっちゃんはちょっとお酒が好きな婚活中の現場監督です」
「……偽装でしょ?」
「ちゃんと働いてるって! 税金だって納めてるよ!」
「真面目!? なんで酒呑童子がちゃんと働いて納税してるんだよ! 妖怪らしくフリーダムに生きろよ!」
「……しゅ。酒呑童子? おっちゃんそんなかっこよくてナイスミドルなイケ鬼はしらねえなぁ」
「いや、死ぬほど不細工かもしれないぜ!? あと、足臭そう」
「俺の足は臭くねえよ! あと、イケおじな部類に入ると自負しているけどな!」
「はーい、酒呑童子発見ー!」
「ち、ちくしょう。まるで二時間ドラマの刑事さんのような誘導尋問だな!」
「それほどでもあるぜ、じゃあさようなら!」
バチバチと帯電した聖剣を引き抜く夏樹に、酒呑童子が慌てた。
「待て待て待て、展開が早い! 早すぎ! なんなの、最近の子ってちょっとくらい話聞かないの? ほら、ライトノベルとかで無駄に語るシーンあるじゃん!」
「殺してから聞くよ」
「死んでからはさすがのおっちゃんも話せないなぁ! 待て待て、その物騒な剣で俺を斬ったらトラックごとだぞ! ご近所さんにご迷惑がかかるんだぞ!」
「大事の前の小事です!」
「この子、本当に怖い! トンカツ食べながらお話ししよう。俺たちは会話ができるんだから、話し合えるって! ね? ね?」
「なーんで、京都の鬼をシメてる酒呑童子さんが話し合いを求めるんでしょうねぇ!」
「待て待て、お待ちなさいって! まず、そこからだ!」
「どこからよ?」
「――俺は、鬼のトップじゃねえ」
「――へぇ」
不覚にも興味深いと思ってしまった。
酒呑童子からは血の匂いがしない。
少なくとも、十数年は人を食らっていないのだと予想できた。
敵意もない。
トンカツも食べたい。
夏樹はわずかに悩むと、
「いいだろう。俺もラノベ主人公みたいに長ったらしく話を聞いてやるよ」
「はぁ……よかった。お家にあるとっておきのお酒を飲めずに死にたくはねえからなぁ」
「あ、その辺りはちゃんと酒呑童子だ。ちょっと安心したかも」
■
しばらくして。
夏樹が想像していたトンカツ屋さんの三倍くらい高級店の個室で、
「えー、わざわざ向島市から、おっちゃんこと酒呑童子を殺しにきてくださった由良夏樹くんとお仲間の皆様との出会いを祝して、乾杯!」
「乾杯じゃぁああああああああああああ!」
なぜかお食事会が始まっていた。