作品タイトル不明
31「異世界召喚されかけたんじゃね!?」②
けたたましいブレーキ音が響き、トラックが止まった。
あと数十センチで夏樹にぶつかるという距離だった。
「あ、あっぶねー!」
トラックがぶつかったくらいでどうこうなる肉体ではないが、怖いものは怖い。
夏樹の心臓はばっくんばっくんしていた。
「だ、大丈夫か兄ちゃん!?」
「あ、うん」
トラックの運転席から、体格のよい中年男性が飛び出してきた。
五十過ぎくらいだろうか。
日に焼けた顔は強面だか、どこか愛嬌のあるようにも見えた。
百八十を超える長身を、作業服で身を包んでいる。
夏樹と男性は顔を見合わせ、無事を確認すると揃って叫んだ。
「よかったぁああああああああああああああああ! 異世界転生するかと思ったぁああああああああああああああああ!」
「あっぶねえぇえええええええええええええええ! 異世界転生させるかと思ったぁあああああああああああああああ!」
せっかく異世界から帰還したのに、今度は召喚ではなく転生ではたまったものではない。
夏樹と男性はそれぞれ違う理由で安堵の息を吐き出した。
「いやぁ、悪い悪い。だけどな、兄ちゃんも曲がり角からひょいっと出てきたら駄目じゃねえか。おじちゃんも悪いけど、ちゃんと前見て歩かねえと。ぼーっとしていいのはエロ動画見ている時と、失恋した時だけだぜ」
「ぼーっとしていたのは謝るけど、今のところどっちも縁がないかな!」
「ま、車側が悪いのはわかっているんだが、一応な。それにしてもトラックで中学生を跳ねるなんてしたら異世界転生って決まってるからな。兄ちゃんが雑魚スキルのせいで追放されてもおっちゃんは責任取れねえし」
「ネット小説詳しくね!?」
「嗜みだよ、嗜み。おっちゃん世代は、ラノベとか凄かったぜぃ」
「ほえー」
「語らせると長いぜぇ」
「それは今度でいいよ。んじゃ、俺はこれで」
おっちゃん世代のラノベは、夏樹も知りたかったがまずははぐれてしまった小梅たちと合流することが先決だ。
今頃、いなくなった夏樹を心配し泣きながら探していることを思うと胸が痛くなる。
「まあまあ、待てって」
「はい?」
「いや、おっちゃんてきに怖い思いをさせちまったにいちゃんをこのままにはできねえ。トンカツは好きか? お昼、奢ってやるよ!」
「トンカツは好きだけど……俺を探して泣いている子たちがいるんです!」
「泣いているかはしらねえけど、メッセージで呼べないのか? ほら、現在地を送るとか、いろいろあるだろ。もっと文明の利器を活用しろよ、若人」
「そうだったね。焦ってたよ」
「見たところ、にいちゃんは観光客だろ? 友達も呼んでいいから、おっちゃんと飯行こうぜ!」
「――ご馳走様でーす!」
ここで断るほど無粋ではない。
夏樹は男性のトラックの助手席に乗ると、これから向かうお店の位置を小梅に送信した。
「おっと、そう言えば名乗ってなかったな。働き盛りのおっちゃんは 悪酒好太郎(おさけこうたろう) だ。よろしくな!」
「……いや、おっちゃん絶対酒呑童子だろ」
■
――その頃、向島市では。
「いやぁ、夏樹くんも小梅さんもいないと寂しいっすねぇ。一応、警察官で院所属なんで自分は京都でやらかせないんすよねぇ」
丸テーブルにパソコンを置いて、書類を作りながらお煎餅を食べている銀子はどこか退屈そうだった。
そんな彼女に近づく影がある。
「――エージェント銀子」
「はい? ……え? あの、なんでジャックさんもナンシーさんもスーツにサングラス装備しているっすか? あとエージェント銀子ってなんすか?」
「夏樹と一緒に壊滅させたドップニャーニャー海賊団の残った幹部連中が復讐のために地球に向かっている。そこでエージェント銀子に力を貸してほしい」
「……は? え? マジで、意味わかんないっすけど。ドップニャーニャー海賊団って、そんな可愛い名前の海賊がって、え? その海賊団って宇宙海賊っすよね? 銀子ちゃんが宇宙人と戦うんすか!?」