作品タイトル不明
27「いざ、京都へじゃね?」
向島市の駅のホームで、夏樹たちは電車に乗ろうとしていた。
「いくぜ、由良夏樹君と愉快な仲間たち!」
「……愉快なのはおどれだけじゃろうて。俺様は駅弁食べるのに忙しいんじゃが」
「珈琲がうめぇ。やっぱり朝は珈琲だなぁ」
「小梅ちゃんと千手さんが冷たい!」
スウェットパンツに、TシャツとロンTの組み合わせに、バッシュを履いた夏樹がしくしくと泣く。
彼はウエストバッグを肩に引っ掛けただけの軽装だ。
他の荷物はすべてアイテムボックスに入っている。
「まだ京都にも着いておらんのにテンションなど上がらんのじゃが」
「嘘つけ! さっきまで駅弁でテンション上げまくっていたじゃない!」
すでに五つの弁当を空にしている小梅は、六つ目の弁当を食べていた。
そんな彼女はスキニーパンツにサンダル。大きめな白いニットを身につけているだけの軽装だ。
小梅の荷物はすべて夏樹のアイテムボックスの中にある。
下着や着替えを、ビニール袋で渡されて「入れといてくれんか」と言われた時にはびっくりした。
透明なビニール袋だったので、小梅の下着が見えてしまい、どきどきしてしまった。
銀子が「いやいや小梅さん、ブランドもの持てとは言わないっすけど、ビニール袋て」と呆れていた。
「うむ。シューマイ弁当も美味いが、カツサンドもええのう! 京都で食い倒れする予定じゃから、腹八分目にしておかんとのう」
「あのー、京都には食い倒れツアーしにいくわけじゃないんですけどぉ」
「酒呑童子瞬殺したら、安倍さんのお金で豪遊じゃろうて!」
小梅の中で、酒呑童子を「倒す」は決定事項のようで、その後のことを考えていた。
夏樹と戦ったことのある小梅だからこそ夏樹の勝利を疑っていないようだ。
「俺も同感だな。今さら由良が酒呑童子に遅れをとったりしないだろう」
「千手さんまで、旅行する気まんまんじゃん。スーツケースとか、何泊するつもりだよ!」
茶色いスラックスとジャケットの下に、薄手のグレーのセーターを身につけた千手も小梅同様に夏樹の勝利を疑っていない様子だった。
「酒呑童子は相当強いと聞いているが、素盞嗚尊様や雷神トールほどじゃないだろう。慢心は良くないだろうが、不安を覚えて戦うのもよくない。それに、由良も負ける気はないだろ」
「そりゃ、俺が勝ちますけど?」
「じゃあ、いいだろう」
「そうなんだけどさ。神々が絶対的に強いわけじゃないし、妖怪が神々より弱いって決まってるわけじゃないからね」
負ける気はないが、月読の口から「強い」と聞いているので慢心するつるもりはない。
今で出せる全力で殺す。それだけだ。
「人間でも規格外な由良がいるからな。俺も、酒呑童子たちに遊び感覚で勝てるなんて思ってはいねえさ。院に頼んで、魔眼の封印も解いてもらったからな。なんだか、喜んで封印解いてくれたのが気味が悪かったが」
千手は知らないが、『なっちゃんの親友』である素盞嗚尊から院の幹部に、夏樹の周囲に関しては「よきにはからえ」とお達しが届いている。
素盞嗚尊曰く、「なっちゃんの友達は俺の友達! いえっ!」とのことであり、幹部たちは「何言ってんの?」と内心突っ込んだが、頑張って口に出さずにいた。
だが、おかげで千手の魔眼が復活したのだ。
「おーい!」
電車に乗り、そろそろ扉がしまるという頃、同行する予定のなかった祐介が走ってきた。
駆け込み乗車にはならなかったが、息を切らして現れたので駅まで走ってきたのだろう。
「どったの、祐介くん?」
「僕も行くよ」
「気持ちは嬉しいけど、リリスさんとサキュバスさんのお話するんじゃない?」
夏樹が尋ねると同時に、電車の扉が閉まり、発進する。
祐介は座席に座ると、首にかけていたタオルで汗を拭った。
「リリスさんには謝って、こっちに来ることにしたよ。サキュバスさんも大切だけど、僕には友達の方が大切だから」
「――とぅくん」
「――とぅくん」
「――とぅくん」
祐介の友を想う気持ちに、夏樹、小梅、千手の胸が高鳴ったのは言うまでもない。
夏樹たちはときめながら、京都に向かう。
その後、すぐにノリが修学旅行になって賑やかに電車の時間を楽しむのだった。